「ほこはやし(矛逸し)」。「ほ」と「や」の子音H音とY音は退行化した。「はや(早・逸)」は経験経過の意外感や感銘の表明。「ほこ(矛)」は武器の一種。「ほこはやし(矛し)→こはし」は、基本的には、矛(ほこ)を用いた際の体験印象が表現された語。表現されることは、触れることに危険を覚える鈍重な鋭角感のある勢い抵抗感のある強固な硬さ(情況であれば困難さ)、抗(あらが)いがたい強靭さ、危険を予感させる不安・恐怖、といったこと。

「『當麻邑(たぎまのむら)に勇(いさ)み悍(こは)き士(ひと)有(あ)り。當摩蹶速(たぎまのくゑはや)と曰(い)ふ。其(そ)の爲人(ひととなり)、力(ちから)强(こは)くして以能(よ)く角(つの)を毀(か)き鉤(かぎ)を申(の)ぶ…』」(『日本書紀』:「當麻」は『和名類聚鈔』に「多以未(たいま)」とありますが、『日本書紀』の他の記述によれば古くは「たぎま」(※))。

「䥫(てつ)の口(くち)猛(たけ)く䝘(こはく)して人の筋骨を破砕す」(『大智度論』平安初期点)。

「淩 …シノク シヘタク ヲカス オソロシ シリソク コハシ…」(『類聚名義抄』)。

「『口をしくこの幼き者はこはくはべるものにて、對面すまじき』と申す」(『竹取物語』:これはかぐや姫がどうしても帝に会うことを承諾しない、というものであり、抗(あらが)いがたい強靭さ)。

「こはき物の怪にあづかりたる験者」(『枕草子』:これは、恐怖を感じる物の怪ではなく、とりついて離れがたい物の怪)。

「この文のことば、いとうたて、こはく、にくげなるさまを…」(『源氏物語』:「こはく にくげなるさま」は、優美さはなく、楽しげでもなく、心的に重くなるような印象のさま、ということ。「にくげ」は憎悪を感じているような、という意味ではない。動詞「にくみ(憎み)」ではなく形容詞「にくし(憎し)」の語幹(言ひにくい、や、やりにくい、などのそれ))。

「いとこはくすくよかなる紙に書き給ふ」(『堤中納言物語』:「こはくすくよかなる紙」は、美的装飾はない、飾り気のない、権威的実務で用いられるような、実務的な堅苦しさを感じるような紙)。

「太義なといふ事を………上総下総にて、こはいと云」(『物類称呼』:「太義(タイギ)な」は、辛(つら)かったり、困難であったり、苦労したりすること。この「こはい」は抵抗感のある強固な硬さ(情況であれば困難さ)を経験している、ということ。それにより肉体的・精神的にも疲労し困憊したりしている)。

「神カコハイトモヲソロシイ不思(おもはず)シテ…」(『荘子抄』:この「こはい」は不安や恐(おそ)れを覚えること)。

 

※ この記事は『日本書紀』の垂仁天皇・七年七月七日にあるもので、「當摩蹶速(たぎまのくゑはや)」は後に「とうまのけはや」と言われ、「野見宿禰(のみのすくね)」と力比べをし、これは記録上現れる「すまひ(相撲):すまう(相撲)、になる語」の最初とも言われるものです。しかしここでの「すまひ・すまう」は、後世のような、押し出しで勝、というようなものではなく、最終的に野見宿禰(のみのすくね)が當摩蹶速(たぎまのくゑはや)を踏み殺してしまいます。古代の「すまひ・すまう(相撲)」は現代ほど甘くはありません。