「こいおよぎ(臥い泳ぎ)」。「こよよぎ」のような音(オン)を経、「よよ」は無音化した。「こい(臥い)」は動態が凝集したようになることを表現する(→「こい(臥い)」の項・1月27日)。「およぎ(泳ぎ)」は「かきわけ(掻き分け)」に似たような意味です(→「およぎ(泳ぎ)」の項・2020年12月24日(下記※))。動態が凝集したようになりかきわける、とはどういうことかというと、原意的な動態は、原木を舟とし水に浮かべたこれに跨(また)がり乗り、これに身を伏ししがみつくような状態になりながら手で水上を進行したり方向を変えたりすることでしょう。木と一体化するような状態になることが動態の凝集です。そうしつつ水をかきわける。それが「こぎ」の原型でしょう。これが、手ではなく、櫓(ろ)や櫂(かい)を使って舟を操作することも表現するようになり、同じような動態を思わせるところの、ある程度の深さで積もっている雪中や笹薮(ささやぶ)などをかきわけるように進んだりすることも表現し、自転車を発動させることも表現し、櫓(ろ)を操作する反復運動を思わせることから「ブランコをこぐ」とも言う。ボートを漕(こ)ぐことと自転車を漕(こ)いだりブランコを漕(こ)いだりすることが何が似ているのかといえば、反復的に力を加えて推進すること、その点が「こいおよぎ(臥い泳ぎ)→こぎ」の動態に似ているのです。
「大宮人の まかり出(で)て こぎける舟は 竿梶(さをかぢ)も 無くてさぶし(寂し)も こがむと思(も)へど」(万260:「まかりで(罷り出)」は、登場する、の意味にもなり得ますが、主に、そしてこの場合も、退出しいなくなってしまうこと。この歌は後注に、奈良遷都後、旧都(藤原京)をしのんで作ったか、とある)。
「雪をば深くこぎたり」(『義経記』)。
(随分前のことなので「およぎ(泳ぎ)」再記)
・ 「およぎ(泳ぎ)」(動詞)
「おふをよき(覆ふを避き)」。自分の全身を覆う何かを避ける。「かきわけ(掻き分け)」にある程度意味が似ている。「よけ(避け)」は古くは「よき(避き)」という四段活用があった(原形は上二段活用)。全身を覆っている何かとは水です。魚が水中で進行する動態を表現したもの。元来は「およき」と清音でしょう。
「池におよぐ魚、山になく鹿をだに…」(『源氏物語』)。
「泝………行宇加夫又於与支」(『新撰字鏡』(享和本))。
「泳 …オヨク」(『類聚名義抄』)。