「けへとら(異へとら)」。語尾のR音は退化しその母音は「と」を「た」に変えた。「け(異)」は今までとは異なり予想・期待にないこと、通常・常態ではない異常なこと・ものであること、そうしたこと・ものを表現する(→「け(異)」の項)。「へ」は方向感を表現する助詞であり(→「へ(助)」の項)、「と」は思念的に何かを確認し(→「と(助)」の項)、語尾の「ら」は情況を表現しある情況にあること・ものを表現する(→「ら」の項)。すなわち、「けへとら(異へとら)→けた」とは、期待にない、常態にない方向感のある情況のもの・こと、ということなのですが、ある直線的進行(A)があった場合、それに対し「け(異)」である、その方向の予想・期待にない、方向への進行(B)は絶対的に(A)に同動しない(それは逆行もしない。なぜなら時間は逆行しないから)。それは常に(A)に直角に交わる方向へと向かう。方向がそこからずれれば、ずれる前よりは「け(異)」ではなくなる(それは進行(A)に対し順な方向へ向かう)。すなわち、「けた」は、ある方向の進行に直角に交わる進行という情況にあること・ものを表現する。
たとえば「はしげた(橋桁)」は、橋の、川の流れと直角に交わる方向の材。建築における「けた(桁)」は、垂木(たるき:屋根の傾き方向・流れの材)に直角に交わる(屋根の棟(むね)に平行になる)方向の材(これも「はり(梁)」の一種ですが、この状態の梁(はり)を特に「けた」と呼ぶ)。算盤(そろばん)の「けた(桁):これは数字の「けた(桁)」でもある」は数の増大・減少の進行方向に直角に交わる位置を言う(算盤においてその珠(たま)を貫く細い棒が数の増大・減少の進行方向に直角に交わる)。
「桁 ……和名計太」(『和名類聚鈔』)。「桁 …ケタ ナケシ」(『類聚名義抄』:「なげし(長押)」は、「なかへしひ(中隔強ひ)」でしょう。これは家内部の建具の名であり、柱と柱間に横に渡される板状の材ですが、家の中のある域を隔(へだ)て(隔(へ)立(た)て)、そこが中(なか)となることを(そこが独立的な部屋となることを)強いるもの、の意)。「中押 ……和名奈介之」(『和名類聚鈔』)。
角:この「けた」は抽象的一般的な概念となり、直線が直角に交わっている形状、それにより形成される図形、すなわち四角、やそれらの形状にあるものも意味する。
「斧ト云モ斨ト云モトレモ斧ソ。ヲノヽ(斧の)柄ノホリ入ル処ノ丸イトケタナトノチカイソ(違いぞ)。斧ハナカコ(なかご(中子:斧の柄が入る部分))カマルイ斨ハケタナソ」(『毛詩抄』:「斨」の音は「シャウ」。意味は、柄をさす穴が四角い斧)。
「是れ猶ほ方(けた)なる底に圓(まどか)なる蓋(ふた)を覆(おほ)うて其の能く合はんことを願ひ、功力を寒氷に極めて飛焔(ひえん)を求めんがごとし」(『三教指帰(サンゴウシイキ)』)。
「角 ………ケタニ」(『類聚名義抄』)。「桁 … ケタ 屋桁也」「方 ケタナリ 方圓」 (『伊呂波字類抄』:「方圓(ハウヱン)」は四角と丸の意)。