◎「け(毛)」

「きはえ(着生え)」。「かえ」のような音(オン)を経つつ「け」になった。着(き)る状態で(身に付随する状態で)生(は)える(育つ)、もの、の意。生物の皮膚に生える糸状角質。人の場合とりわけ頭部のそれを言う。ただし『和名類聚鈔』などでは、人間の頭部のそれは「かみ(髪)」と言っている→「鬢髪 ………頰髪也 …髪 …和名加美 首上長毛也」(『和名類聚鈔』)。

「…我が毛(け)らは み筆(ふみて)はやし 我が皮は み箱の皮に…」(万3885:「はやし」は、映(は)えさせるもの、という意味であり、それを美しくひきたたせるもの。これは鹿の身になっての歌)。

「氄毛 …中冬鳥獣氄毛 和名不由介 孔安國注云鳥獣皆生細毛自温也」(『和名類聚鈔』:「氄(ジョウ)」は『廣韻』に「鳥細毛也」)。

 

◎「け(器・食)」

「こへ(小器)」。「へ(器)」はようするに焼き物・土器であり、「うつは(器:容器)」を意味する。「へ(器)」が器(うつは)や容器の汎称になる。「こへ(小器)→け」は、細々(こまごま)とした、生活雑貨的な「へ(器)」。重要なのは食器。現代で言えば茶碗・(汁物の)椀、皿、漬物などを入れる小鉢のたぐい。「け(器)」がそれらを意味し、さらにはそれらを用いること、すなわち食べること、すなわち食事、も意味するようになった。「あさげ(朝餉)」「ゆふげ(夕餉)」の「け」です。

「家にあればけ(笥)に盛る飯を…」(万142:これは食器の意)。

「拕摩該儞播(玉笥(たまけ)には) 伊比佐倍母理(飯(いひ)さへ盛(も)り) 拕摩暮比儞(玉盌(たまもひ)に) 瀰逗佐倍母理(水(みづ)さへ盛(も)り)」(『日本書紀』歌謡94:これは、現代で言えば茶碗)。

「(蘇我蝦夷が)群臣を聚(つど)へて、大臣(おほおみ)の家に饗(あへ)す。食(け)訖(をは)りて散(あか)れむとするに…」(『日本書紀』:これは食事の意)。

「笥 ……和名計 盛食器也」(『和名類聚鈔』)。「笥 ……ケ」「食 ………ケ」「𦭡 イシミ ケ」(『類聚名義抄』:「イシミ」は竹籠(たけかご)・笊(ざる))。

「御食向味原宮者(みけむかふ あぢふのみやは)」(万1062:「みけむかふ」は枕詞。ここは「あぢ(味)」にかかっている。「食」が、け、と読まれているということ)。

「くしげ(櫛笥)」(櫛などをいれておく容器・箱。これは平安時代にもなれば木製の漆塗りなどでしよう)。「をけ(麻笥:遠家(万3484))」。