◎「くらゐ(位)」

「くらゐ(座居)」。「くら(座)」に存在進行していること。「くら(座)」が社会的な位置(評価)を現す(→「くら(座・鞍)」の項)。その「くら(座)」の「ゐ(居)」。その「くら(座)」(社会的な位置(評価))たる存在のあり方、それが「くらゐ(位)」。古く、朝廷政府において、その意味価値評価の尊いもの、それより多少劣るもの、さらにそれより多少劣るもの、といった段階的位(くらゐ)がさまざまな名で公的に設けられ、ある官職がどの位にあるかによってその評価が異なった(下記※)。そうした影響で、「くらゐ(位)」が事象の程度を意味するようになる。数字なら、一(いち)が十あれば十(とを)の位に乗り、その十(とを)が十あれば百(もも:ヒャク)の位に乗る。また、程度も意味する。ただ、事象の意味や価値の評価に明瞭性はなく、比較衡量的程度が表現される。そこで言われる「くらゐ(位)」にはあまり尊重感はないことが多い。「そのくらゐのことならできる」、「そんなことをするくらゐなら収入は低くても今のままのほうがまし」、「五千円くらゐの靴」、「當世も医者の医学をばせずして、太平記位をよみなどして、物知と人におもはれて…」(「沢庵書簡」)。

「年長く日多(まね)く此座(くらゐ)に坐(ま)せば、荷重く力弱くして不堪負荷(もちあへたまはず)」(『続日本紀宣命』宣命:ちなみに、これの原文は、年長久日多久此座坐波荷重力弱之氐不堪負荷) 。

※ たとえば、太政大臣(官職)は正一位・従一位(位)、少納言は従五位、といったようなこと。

 

◎「くり(栗)」

「きふり(着触り)」。「ふれ(触れ)」は古く「ふり」の四段活用があった。何かを着て、何かで手を覆って、触れるもの、の意。目指す実が中にある毬(いが)に無数の鋭い刺(とげ)があるからです。直接に触るのは危険なのです。植物の一種、また、その実、の名。

「瓜(うり)食(は)めば 子ども思ほゆ 栗(くり:久利)食(は)めば まして偲(しの)はゆ…」(万802)。

「栗子 ……和名久利」(『和名類聚鈔』)。

 

◎「くり()」

「くろおり(黒降り)」。「くろり」のような音を経つつ「ろ」は無音化した。「おり(降り)」は、(水中で)降りるもの、の意であり、沈殿物のこと。つまり「くろおり(黒降り)→くり」は、黒い沈殿物。これは水底の黒色の土を意味する。

「涅 唐韻云水中黒土也… 久利」(『和名類聚鈔』)。

「皂頭布 クリノカウフリ」(『類聚名義抄』:「皂」の正字は「皁(サウ)」(ただし原文には少し違った字体が書かれる)。これはドングリやそれによる染め物を意味し、「くりいろ(涅色)」は黒を意味する。ただし、後世ではクリイロは栗の実の色、すなわち茶色を意味するのが一般)。

漢字表記の「涅(ネ)」は黒土を意味する。「ネハン(涅槃)」はサンスクリット語の音訳。