◎「くらみ(暗み)」(動詞)
「くら(暗)」の動詞化。意思動態的に「くら(暗)」の情況になること。光量が減少したり無くなったりすること(暗くなること)も意味し、見えにくくなったり見えなくなったりすることも意味し、情報量が減少したり消滅したりして判断能力が減少喪失することも意味する。
「『多く並(な)み居(ゐ)て候ふを、人なしと召され候ふは、実(まこと)に御目のくらませ給ひけるにこそ』と、各々袖を絞りける」(『保元物語』:目が見えなくなっている)。
「くらむ命のともしびはきへてはかなく成にけり」(「浄瑠璃」:光量が減少し暗くなっていくような命)。
◎「くらまし(暗まし・眩まし)」(動詞)
「くらみ(暗み)」の他動表現。「くらみ(暗み)」(上記)の、「はげみ(励み)」→「はげまし(励まし)」のような、使役型他動表現が何かに関しそれを見えにくくしたり見えなくさせたり、情報量を減少させたり消滅させたりして判断能力を減少喪失させることを意味する。ただし、「くらみ(眩み)」(下記)の使役型他動表現もあるでしょう。すなわち、認識や判断能力を終末的な状態で機能しなくさせる。
「衆生は無明に冥(くらまさ)れて煩惱の果を見ず」(『大般涅槃経』:これは暗くすることですが、それにより認識機能・判断機能の喪失を表現している)。
「皆跡をくらまし、名を隠して山にはいり」(『史記抄』これは、暗まし、とも、眩まし、ともとれる表現)。
「時の人を欺(あざむ)きくらまして」(『尚書抄』:これは、眩まし、でしょう)。
「行方をくらまし」。
◎「くらみ(眩み)」(動詞)
「くれやみ(眩れ止み)」。「くらし(暗し)」の語幹にもなっている「くら(暗)」の動詞化ではないということ(※下記)。動詞「くれ(暮れ・眩れ)」の、「眩れ」と書かれる系統の用法における「くれ(眩れ)」(→「くれ(暮れ・眩れ)」の項)による動詞ということ。「くれやみ(眩れ止み)→くらみ」とは、暮(く)れが止(や)んでいるのではなく、暮(く)れ、(機能が)止(や)んでいる→終末的に認識や判断能力が機能しなくなっている、ということ。「目がくらむ」という言い方が一般的ですが、「良知のくらみぬるは不孝」といった表現もある。「Aに目がくらむ」はAによって認識や判断能力が機能しなくなっていく(眩れていく)→「金に目がくらむ」。「はうちゃう(包丁)をおしあてらるれば、眼(まなこ)もくらみ、息つまって…」(「狂言」:これは、暗み、ではなく、眩み、でしょう)。
何かを見えにくくしたり、情報量を減少させたり消滅させたりして判断能力を減少喪失させる他動表現もあり、これは「くらみ」(四段活用)と「くらめ」(下二段活用)がある。「跡をくらみて失せぬ」(『十訓抄』)、「跡をくらめて失せぬ」(『古今著聞集』)。この四段活用表現は助詞の「を」には状態を表現する効果があることによる。つまりそれは「跡」の状態でくらみ、ということであり、他動表現のように見えるが自動表現。
※ 「くらし(暗し)」の語幹にもなっている「くら(暗)」の動詞化たる「くらみ(暗み)」もある(上記)。これは暗くなることであり、この意味での「目がくらみ」は目がみえなくなること、何もみえなくなること。「巴波の紋あたりを払ひ、潮を蹴立て、悪風を吹き掛け、眼もくらみ、心も乱れて」(「謡曲」:これは「暗み」と「眩み」の二重意になっているような表現。潮や悪風でなにも見えなくなり、判断能力が機能しなくなる)。