◎「くも(雲)」

「けいむみほ(気忌む御秀)」。その見えないが感じられる何か(け:気)を、惧(おそ)れ警戒する、触れてはならない神聖感や美しさが感じられる(忌む)、秀でるもの(御秀(みほ:浮かび上がるもの))、ということです。なぜ忌む(畏(おそ)れ慎(つつし)む)のかと言えば、その普段とは様子の違う異変を警戒しなければ危険だからです(とりわけ、海上で)。

「畝火山(うねびやま) 晝(ひる)は雲(くも:久毛)とゐ 夕されば 風吹かむとぞ 木の葉騒(さや)げる」(『古事記』歌謡22:これは(謀(はか)りごとたる)事件を知らせようとする歌であり、雲が、風が吹き騒ぎが起こることの象徴のような扱いになっている。「とゐ」は、ふと、突発的に発生すること)。

「對馬(つしま)の嶺(ね)は 下雲(したぐも:之多具毛)あらなふ(~は無い) 可牟(かむ)の嶺(ね)に たなびく雲(くも:君毛)を見(み)つつ偲(しの)はも」(万3516:三句「可牟能祢(かむのね)」は未詳とされますが、これは、神(かむ)の嶺(ね)、であって、神の山にたなびく雲を見るようなあなたを思いつづけよう、ということでしょう)。

「こもりくの初瀬の山の山の際(ま)にいさよふ雲は妹にかもあらむ」(万428:これはある女性の火葬の際の歌。「いさよひ」は2019年12月4日)。

「雲 説文云雲 山川出気也…和名久毛」(『和名類聚鈔』)。

◎「くもり(曇り)」(動詞)

「くも(雲)」の動詞化。「くも(雲)」の情況になること。気象現象たる雲が空に相当程度あらわれていることを表現することが基本ですが(「明日の天気はくもり時々晴れ」)、視界が雲の中にいるような、明瞭感のない、あるいは乏しい、状態になったり(「涙にくもる玉の筥(はこ)かな」(『源氏物語』:この筥(はこ)は経箱))、心的、心情的に爽やかに見通す明るさ、明瞭感がとぼしくなることも表現する「晴れくもる人の心のうちまでも…」(『続拾遺集』)。

「曇 …クモル」、「曖 …クラシ(暗し)…クモル」、「垢 アカ アカツク …クモル」、「靄 キリ クモル…」、「蒙 ……クモル クラシ…」(以上『類聚名義抄』)。

 

◎「くも(蜘蛛)」

「けいみほ(毛い廻帆)」。「けい」が「く」に、「みほ」が「も」になっている。「い」は動態の持続を表現する。「み(廻)」はめぐること(動詞「み(廻)」の連用形)。毛のようなものが廻(めぐ)りゆき(渦をなし)帆(ほ)のような状態になるもの、の意。これはある虫の独特な巣を表現したものですが、それを作りそれにより生活する虫もそう呼ばれた。虫の一種の名。ちなみに、蜘蛛の巣やその糸は「い」や「いがき」とも言う。この「い」は「ゆ(揺)」の変化。それは揺れることが印象的だったから。「いがき」は「揺掛き」(「かき(掛き)」は他動表現。下記万892に同じ)。

「甑(こしき)には蜘蛛(くも:久毛)の巣(す)かきて(可伎弖)…」(万892)。

「蜘蛛 ………久毛」(『和名類聚鈔』)。