◎「くましね(糈米)」
「くましにへ(汲まし贄)」。「にへ(贄)」は神への供物たる食べもの。「くまし(汲まし)」は「くみ(汲み)」の尊敬表現連用形(つまり、動詞「くみ(汲み)」に尊敬の助動詞「し(連用形)」がついたもの))。神が受容することを自然に湧いた水を汲み取るように表現した。お汲みになっている贄(にへ)、ということであり、これは、そうにちがいないんだ、という願望表現でもある。「くますにへ(汲ます贄)」にはならない。なぜなら、神がくみとるか、受け入れるか、は不明だから。具体的には、神が汲み取り、受容なさり、贄(にへ)・食べものになるもの、ということであり、特に、米を意味する。「くまい」という言葉もありますが、これは「供米」の音(オン)。
「道俗男女にいたるまで、くましねを包みなどして参りけり」(「御伽草子」)。
「𥻯米 ……和名久萬之禰 精米所以享神也」(『和名類聚鈔』:「享(キャウ)」は、たてまつる、の意)。
◎「くまそ(熊襲)」
古代、朝廷に服(まつろ)はぬものたちとして言われた呼称の一。これは九州方面のものです。「くま」も「そ」も九州南半の地域名であり、基本的な意味は、その地の者たち、ということ。「くま」は「くま(隈)」であり「そ」(九州一部の古代の地域名)は下記。現代でも熊本県に「球磨(くま)郡」があり、鹿児島県に「曽於(そお)郡」がある。「熊襲」(熊(くま)が襲(おそ)う)という表記はその地域の者たちが「まつろはぬもの」と言われた時代に定着したものでしょう。『豊後国風土記』では「球磨贈」と書かれている。
◎「そ」(九州の古地域名)
「そ(背)」。九州一部の古代の地域名の「そ」です。九州南端域の、さらに東よりあたりか。どこからどこまでが「そ」かは明瞭ではありません。「そ(背)」は「せ(背)」による語ですが、その項参照。それは進行とは逆方向を意味し、進行がそこで止まるところ、果て、の意です。古代では九州北部から見て南端がそうだったわけです。この「そ」と「くま」(「くま(隈)」の項参照)を合わせた「くまそ」は、古代において、「えみし」とともに、服(まつろ)はぬ者を意味する代名詞のようになっていた時期がありました。
「肥後國 ……球麻(くま)郡」「大隅國 ……囎唹(そお)郡」(『和名類聚鈔』)。