◎「くべ」(動詞)

「くみひへへ(組み火へ経)」。最初の「へ」は助詞。「くみひへへ(組み火へ経)→くべ」は、構成し(組み)火へ、という経過を進行すること。つまり、ただ自然反応にまかせ燃やすのではなく、火力を見、全体を調整し燃料を構成し火力を生じさせる。この動詞の使用は極めて限定的であり、燃焼中の竈(かまど)に薪(たきぎ)を加えたりするような、調整的に燃料を燃焼部に入れることにしか使わない。

「はや燒て見給へといへば、火のうちに打くべてやかせ給ふに、めらめらとやけぬ」(『竹取物語』)。

「竈(かまど)に薪(まき)をくべ」。

この語の自動表現「くばり」に関しては「くばり(配り)」の項でふれましたが(11月8日)、この「くべ」(他動)・「くばり」(自動)の関係は「きめ(極め・決め)」(他動)・「きまり(極まり・決まり)」(自動)のようなもの。

 

◎「くぼ(窪)」

「くま(隈)」(進行の進んだ限定域)の状態で下へ落下している印象の地形が「くまおち(隈落ち)→くぼち」。この「くぼち」が「くぼち(くぼ路)」(下へへこんだ状態にある路)と解され、「くぼ」が「くまおち(隈落ち)」の状態、そのような状態にある地形その他を表現するようになった。なだらかな凹みです。「ゑくぼ(笑窪)」。形状の類似から女性性器を言うこともある。「くぼみ(窪み)」はその動詞化。「くぼし」(形ク)という形容詞もある。

「洿 …ニコル(濁る)…フカシ クホム」・「窪 …クホム」・「陷 …オツ オチイル オチル シツム クホム…」・「凹 …クホム」(『類聚名義抄』)。「開 …クホ」(『類聚名義抄』:「開(カイ)」は女性性器を意味する。「開(カイ)」が女性性器を意味することに関しては『和名類聚鈔』に「玉茎 ……男陰名也 ………日本靈異記云(『日本靈異記』に云う) 紀伊国伊都郡有一凶人不信三寶死時蟻著其𨳯(紀伊国・伊都郡に一人の凶人が有り、三寶を信じず、その死の時、蟻がその𨳯についた) 今案是閉字也(今案ずるに是(こ)れは(この𨳯の字は)閉の字だ) 俗云(俗に云う) 或以此字為男陰(或いはこの字を以って男陰となし) 以開字為女陰(開の字を以って女陰となす) 其説未詳」。たしかに「𨳯」と「閉」は同字と言ってもいいような字ですが、ならばなぜ男陰が「閉」なのかよくわからない。ようするに、女性性器は形態的に開きそうだから間接的にそう表現したということでしょう)。

 

◎「くぼさ(利)」

「くべゆさ」。E音とU音の連音がO音になっているということ。「くべ」は、薪(たきぎ:焚き木)を火にくべ、などのそれ(上記)。「ゆさ」は揺れる擬態。火勢が増す。これが、(火に)くべて勢い(火勢)が増すもの、増したものを意味し、これが与える利益・生じた利益を意味する(与えられ(受け)元気になり(燃え上がり)張り切るわけです)。これを役人に与えた場合賄賂(ワイロ)という意味もなり得ますが、「まひなひ(賂)」が何事かの期待や思惑が感じられるものを意味するのに対し「くぼさ」は利益のより現実的な表現。「くぶさ」とも言う。

「其(そ)れ臣(やつかれ:私)を留(とど)めて用(もちゐ)たまはば國(くに)の爲(ため)に利(くぼさ)有(あ)りなむ」(『日本書紀』)。

「頃(このごろ)訟(うたへ)を治(をさ)むる者(ひとども)、利(くほさ)を得(え)て常(つね)とし、賄(まひなひ)を見(み)ては讞(ことわりまう)すを聽(き)く」(『日本書紀』)。

「KUBOSA・ KUBUSA  クボサ 利潤(uruoi)n. Gain, profit, advantage」(『改正増補 和英英和語林集成』(『和英語林集成』の改正増補版):Gain(もうけ、利得), profit(利益、利得), advantage(有利な立場(による利益)))。