◎「くびき(軛)」

「くびき(首木)」。車を引かせるなどのため牛などの首に装着する横木。車の轅(ながえ:長枝)の端につけ、牛などの首にかける状態になる。

「牛をかきはづして榻(しぢ:「支持」の音(オン))にくび木を置きて」(『宇治拾遺物語』:牛をはずして駐車している場合、くびきを榻(しぢ)に置いていたわけです。「榻(しぢ)」の形態は机のようなもの)。

「軛 ……久比岐 所以扼牛領也」(『和名類聚鈔』:牛の領(くびすぢ)を扼(おさ)えるもの)。

 

◎「くひしんぼう」

「くひイッシンバウ(食ひ一心坊)」。食ふことにだけ一心になっている(それしか心にない)坊、の意。この場合の「坊(バウ)」は子供でしょう(僧の可能性もある)。僧(ソウ)の住居を「僧坊(ソウバウ)」ということから、その「坊(バウ)」の主(ぬし)を「坊主(バウス:「ス」は呉音。漢音「シウ」)」と言い、これが僧侶を意味した。その「バウ(坊)」が子供(特に男の子)も意味するのは坊主頭の子が多かったからでしょう。

 

◎「くびす(踵)」

足先後部、足の「かかと(踵)」、あたりの名。→「きびす(踵)」の項。

 

◎「くひぜ(株)」

「くひすゑ(交入ひ据ゑ)」。地に交入(く)ひ(入れ)据えられた印象のもの。草木の切り株を言う。

「根株 ………訓上禰(ね)下久比世(くひぜ) 草木本也」(『和名類聚鈔』)。

 

◎「くひな(水鶏)」

「くひねら(杭音ら)」。語尾のR音は退行化した。鳴声が杭を打つ音(ね)に似ていることによる名(キョキョキョキョ、とすばやく連音するような鳴き方。これが遠くから聞こえると遠くでなにかを高音で連打しているように聞こえる)。語尾の「ら」は情況をそして複数を表現する。鳥の一種の名。生物学的に「クイナ」と呼ばれる鳥は多種ありますが、日本で古くいわれるそれはその中の「ヒクイナ」がほとんどです。

「はるばると物のとどこほりなき海づらなるに、……ただそこはかとなう茂れる蔭ども、なまめかしきに、水鶏のうちたたきたるは、『誰が門さして』と、あはれにおぼゆ」(『源氏物語』クヒナは、鳴くとも言うが、叩く、うち叩く、とも言う)。

「鼃鳥 ……和名久比奈 漢語抄云水鶏 貌似水鶏能食鼃故以名之」(『和名類聚鈔』:「鼃」は中国の書に音(オン)は「烏媧切」(ウヮ、か)、意は「蝦蟇也」とされ、ようするに蛙(かへる)。クヒナは雑食ですが、カエルをよく食べるそれもいるということか)。  

「水鶏 此(これ)をば倶毗那(くひな)と云ふ」(『日本書紀』:これは人名の説明)。