◎「くにす(国栖)」の語源
「くゑいにす(蹴ゑ去に、巣)」。「くゑ(蹶ゑ)」は動詞「け(蹴)」(蹴(け)る)の原形。「くゑいにす(蹴ゑ去に、巣)→くにす」は、蹴(け)るようにいなくなり巣(す:すみか)へ入ってしまう者、の意。古代の日本にそういう者たちがいたらしい。『常陸風土記』に、その者たちは穴に住み、人が来るとそこへ入ってしまうと書かれている。「くず」とも言う。「此者吉野國巢之祖(此(こ)は吉野のくにすの祖(おや))」(『古事記』)。ただし、さまざまなところで言われている「くにす」や「くず」がすべて同族的な者たちなのかは不明です。ただ単に文化的にひどく遅れた印象の生活をしていた者たちをそう言った可能性もある。尾があるなどとも書かれているわけですから(「亦遇生尾人…………此者吉野國巢之祖」(『古事記』))、自然動物を思わせる生活だったのでしょう。
「古老曰。昔在国巣、俗語曰都知久母(つちくも)、又曰夜都賀波岐(やつかはぎ)、山之佐伯(さへき)野之佐伯(さへき)。普置掘土窟(普(あまね)く土窟(いはや)を掘り置きて)、常居穴(常に穴に居(す)み)、有人来(人の来る有らば)、則入窟而鼠之(窟(いはや)に入りて鼠(かく)り)…」(『常陸風土記』「茨城(うばらき)郡」:「やつかはぎ」は、八束脛、であり、脚の長いもの、という意の、やはり異族的印象の者たちの称。「さへき」は、障(さ)へ来(き)、か。障害をもたらすもの、のような意)。
◎「くぬが(陸)」
「くにゆか(国床)」。国土を「ゆか(床)」と表現したもの。「ぬ」が消音化し「くが」とも言う。陸地のこと。「くぬがのみち」は、北陸道、の古い言い方。この語は「くに(国)」に、「おくか(奥處)」「やまが(山處)」のような、「か」や「が」がついているわけではないでしょう(一般にはそう言われている)。その場合は音(オン)は「くぬが」にはならないと思われます。