◎「くなぎ(婚ぎ)」(動詞)

「くひうなぎ(交入ひ項ぎ)」。「くひ(交入ひ)」は侵入的な動態を感じさせる情況になること。動詞「うなぎ(項ぎ・嬰ぎ)」はその項参照(下記※に再記)。「くひうなぎ(交入ひ項ぎ)」は、侵入的に、深く、意に従う、意のままの、状態になること。これは性的な関係になることを意味します。

「陰(ほと)を……くなぎ断ち」(『播磨風土記』:性的関係を断ち)。

「廣幡のおとど嘲(あざけ)られけるを聞きて、此大納言、『何事いふぞ、妻をば人にくなかれて』といはれたりける。聞く人…うたてき事なりとぞいひあひける」(『続古事談』)。

 

※ 動詞「うなぎ(項ぎ・嬰ぎ)」の語源に関しては随分前なので(2020年6月24日)一部再記します。

「うなぎ(嬰ぎ)」(動詞)

「うなは(鵜縄)」の動詞化。つまり「うなはぎ(鵜縄ぎ)」の「は」の無音化。「うなは(鵜縄)」のように首に何かをかけること。首飾りをつけるような動作ではあります。しかしそこには自分が鵜になったような、誰かに動かされるままになるような意味合いがあるでしょう。その誰かとの関係は、首飾りをやりとりするような関係であり、恋愛関係(古代においては、首飾りを交換したり、自分のそれを与えたりすることにそうした特別な恋愛関係を象徴する意味合いがあったのかもしれません。その点は明瞭ではありませんが、下記万3875の歌などはそれを思わせる歌ではある)。

「… 道に逢はさば いろげせる 菅笠小笠(すげがさをがさ) 吾(わ)がうなげる(宇奈雅流)玉の七つ條(を) 取り替へも 申さむものを…」(万3875:「いろげせる(伊呂雅世流)」は「いろぎえせる(色消えせる)」でしょう(この語は一般に語義未詳とされている)。一句二句三句の「琴酒乎 押垂小野従 出流水」は、「ことさけを おしたりをのゆ いづるみづ(言(事)避けを 押し垂り 小野ゆ 出づる水)」(言(事)を避けようとする思いを押して溢れるように垂れる 小野から出る水)。この部分は一般に、「ことさけを」は語義未詳の枕詞で、「おしたりをの」は未詳とされます)。

後には巻くように手にかけていることも言ったようです。

「此の諸(もろもろ)の天女、左には瓔珞(ヤウラク:玉をつないだ首飾り)を佩(ウナキ 別訓 オヒ)右には楽器を負ひて」(『弥勒上生経賛』(平安時代初期))。

 

◎「くながひ(婚)」

「くなぎあひ(婚ぎ合ひ)」。双方が「くなぎ(婚ぎ)」の状態になること。原形は名詞かもしれませんが(「くながひし」という言い方をする)、動詞化もしています。

「優婆塞(うばそく)夢に天女の像に婚(くなか)ふと見……」(『日本霊異記』:「優婆塞(うばそく)」は、出家はしていないが、在俗のまま仏門に入り修行している男。それがそういう夢を見て…ということ)。

 

◎「くなたぶれ」(動詞)

「くにはてあぶれ(国果て溢れ)」。「あぶれ(溢れ)」は、はみだしている、の意。「あぶれもの(溢れ者)」は失格者のような意。「くにはてあぶれ(国果て溢れ)→くなたぶれ」は、国の果てまで行っても世の中に場所を得られない、人の世の失格者、のような意。「くなたぶれ」という動詞表現もある。意味は「くなたぶれ」の状態になること。

「悪(きたなく)逆(さかしま)在(なる)奴(やつこ)久奈多夫禮(くなたぶれ)麻度比(まどひ)……逆(さかしまなる)黨(ともがら)乎(を)伊射奈比(いざなひ)率而(ひきゐて)…」(『続日本紀』宣命)。

「事別(ことわけて)宣(のりたまは)久(く)。久奈多夫禮(くなたぶれ)良(ら)爾(に)所註誤(あざむかえたる)百姓(たみども)波(は)…」(『続日本紀』宣命)。

「KUNATABURE, ―RU クナタブレル i.v. To be obstinate and foolish(頑なで愚かであること)」(『改正増補 和英英和語林集成』(『和英語林集成』の改正増補版))。