「きうちゆふは(着打ち言ふ端)」。「ふは」が「わ」になっている。語頭の「き(着)」は、装着している、の意。「うち(打ち)」は、「うちいで(うち出で)」や「うちなげき(うち嘆き)」などのような、動詞に添えその現実感を表現し動態を強調するそれではなく、打撃を加えること。「うちゆふ(打ち言ふ)」、すなわち、打撃を加え言う、とは、命ずること。「は(端)」は独立的な部分域たるなにか。すなわち「きうちゆふは(着打ち言ふ端)→くつわ」は、装着した、命ずる、断片的な、部分道具的な、もの、ということ。これは、「命ずる」とは、馬に命じその命に従わせる道具的なものであり、具体的には、馬の歯に(正確に言うと歯の無い部分に)噛ませる棒状の馬具(正確に言うと、その噛ませる部品は「はみ(馬銜)」と言い、その他のいくつかの部品からなる馬具の総称)。ここに手綱をつけ馬を操作する。歴史的にはさまざまな工芸品的なものも作られています。
「くつわづら」という語がある。「づら」は「つら」の連濁であり「つら」は「つる(蔓・弦)」の語尾がA音化し蔓(つる)状のものを意味する。この「くつわづら」は「くつわ」の同意語にもなっており、古くは、後(のち)に言う轡(くつわ)に蔓(つる)状のものがつけられ、その総体が「くつわ」とも「くつわづら」とも言われたのかもしれません。轡(くつわ)は後にはいくつかの部品で構成される金属製のものになっていき、この蔓(つる)状の部分は布や革でつくられた「たづな(手綱)」になっていく。
遊女屋の異名たる「くつわ」もありますが、これは「轡」の字を分解して「糸(いと)し(愛し)糸(いと)し(愛し)と口車(くちぐるま)」ということでしょう。そういう商売だということ。「轡―傾城屋の異名なり」(『色道大鏡』:この書には、この名の由来はわからないと書かれている)。
「銜 ……含也 久豆和」(『新撰字鏡』)。
「勒 …轡也 引也 久豆和 又久豆和豆良也」(『新撰字鏡』)。
「銜 フクム クツハミ クツハ 馬クツハ」(『類聚名義抄』:子音が退行化した「くつは」もあったようです。「くつはみ」は語尾が「はみ(噬み・食み)」になりこれが強調されているのでしょう)。
「轡 ……訓久豆和都良(くつわづら) 俗云久豆和(くつわ)」(『和名類聚鈔』)。
漢字表記にはその他「鞚」「鑣」といったものもある。