◎「くち(朽ち)」(動詞)

「きえゐといゐ(消え居とい居)」。「と」は思念的に何かが確認される助詞。「い」は進行感を表現する。「きえゐといゐ(消え居とい居)→くち」は、物的存在であれ、その機能であれ、社会的な意味や価値であれ、それが喪失するあり方に(消え居に)進行的にあり、ということ。消失・喪失過程にある、ということです。

「ひとり寝(ぬ)と薦(こも)くちめやも綾(あや)むしろ緒(を)になるまでに君をし待たむ」(万2538)。

「人の御名(みな)のくちぬべき事をおぼし乱る」(『源氏物語』)。

「その時互ひの恨みはくちにけり」(「御伽草子」)。

この動詞は活用語尾になっている「といゐ」に保存が働き活用は上二段活用になります(たとえば、否定を「くたず」と表現した場合、「きえゐといゐ(消え居とい居)」の原意は喪失する)。否定は「くちず」。終止形「くつ」。連体形「くつる」。已然形「くつれ」。命令形「くちよ」。ただし後には、朽ちない(否定、未然形)、朽ちてしまった(連用形)、朽ちる(終止形)、朽ちる時(連体形)、朽ちれども(已然形)、朽ちろ(命令形)と言われるようになります。つまり、上一段活用化する。

 

◎「くたれ(爛死れ)」(動詞)

「くちやれ(朽ち破れ)」。喪失するあり方に崩れ離れる状態になること、喪失するあり方に崩壊すること。魚などが腐敗によりそうなる。

「茨田(まむた)の池(いけ)の水(みづ)、變(かへ)りて藍(あゐ)の汁(しる)の如(ごと)し、死(し)にたる蟲(むし)水(みづ)に覆(おほ)へり。……大小魚(おほきにちひさきいを:大きい魚、小さい魚)の臭(くさ)れること、夏(なつのとき)に爛(くた)れ死(し)にたるが如(ごと)し」(『日本書紀』)。

 

◎「くたし(朽たし)」(動詞)

「くたれ(爛死れ)」の使役型他動表現四段活用化。つまり「くたらし」のR音が退化している。意味は、「くたれ(爛死れ)」にさせること。物をくたれさせもしますが、人やことをくたれさせれば、けなしたり非難したりし、また、名誉をけがしたりもする。

「富人(とみびと)の家(いへ)の子どもの着るみなみ腐し(くたし:久多志)捨つらむ絁綿(きぬわた)らはも」(万900:「絁(シ)」は下等な絹。「みなみ」に関しては「あまし(余し)」の項)。

「卯の花をくたす長雨(ながめ)の…」(万4217)。

「ひたぶるに籠めて 止みはべなましかば、心のうちに朽たして過ぎぬべかりけるを…」(『源氏物語』:(人には)まったくそれと知られない状態で心にこめてことが止んでいれば心の中(うち)で朽ち果てさせて過ぎたのでしょうけれど…。「はべなまし」は「はべりなまし」、つまり「はべりぬ(侍りぬ)」に助動詞「まし」がついている)。

「名をくたす」(名誉を台無しにする)。

 

◎「くたち(降ち)」(動詞)

「くちたち(朽ち立ち)」。「ち」は無音化している。「たち(立ち)」は何かが発生することを表現する。「くちたち(朽ち立ち)」は、朽ちが発生する。朽ちに発生感が現れ、「朽ち」が目立つ状態になる。終焉に近づいていることを表現する。「くたし(朽たし)」に語音印象の似た動詞ですが、これは自動表現です。

「わが盛りいたくくたちぬ」(万847:もう若くない)。

「夜のくたち」は夜明けが近づく頃。「日のくたち」は夕方。