◎「くだ(管)」

「きうつえだは(着空枝端)」。「つえだは」が「だ」の一音になっているわけです。(糸を)着た、内部が虚ろな(中空になっている)枝(えだ)の断片。これは機織り用具名たる用語であり、内部が中空に貫かれた短めの棒のようなものです。これに糸を巻き、「ひ(杼)」に設置し機織りに用います。この管(くだ)に糸を巻きつけているような動態、その様子を「くだをまく(管を巻く)」という。形状が似た(あるいは、似た部品がついている?)楽器(といっても戦時に戦意を鼓舞するための音響を発するものですが)も「くだ」という。

「繀筟(サイフ) 説文云筟…繀糸管也 漢語鈔云 久太 弁色立成云管子 和名同上(つまり、「久太(くだ)」は和名だということ)」(『和名類聚鈔』調度部中・織機具)。

「…はた織りの管子(クダ)巻く音のきりきりとする」(『新撰万葉集』)。

「…… 小角 久太能布江」(『和名類聚鈔』:この語は「調度部上・征戦具」にある。「横笛 …和名与古布江」などは音楽部にある)。

「吹き響(とよむ)る 小角(くだ)の音も … 敵(あた)見たる 虎か𠮧吼(ほゆる)と」(万199:「𠮧」の字はたぶん「叨」の字として書かれているのでしょう)。

 

◎「くだき(砕き)」(動詞)

「くづは(屑端)→くだ」の動詞化。「くだ」は「くだくだし」(形シク:その項)などにもなっているそれ。この「くだ」は存在が消滅へ向かうその無数の残存断片を意味する。「くだき(砕き)」は、原意的には、何かを、朽ちていく断片にしていくこと。それは、朽ち、それとしてのその存在がなくなるほどに、原形たる正体がなくなるほどに、なる。これは他動表現ですが、岩や木の実なども砕(くだ)きますが、心や身などもくだきます。心をくだいた場合、心が朽ち果て失われてしまうほど心配したり配慮したりする。身をくだいた場合、身も朽ち果てるほど努力する。

「嵐に咽(むせ)びし松も千年(ちとせ)を待たで薪(たきぎ)に摧(くだ)かれ」(『徒然草』)。

「君がくだかむ心は持たじ」(万2308:あなたが心を砕くような心はけしてもたない(そんなことはできない))。

「(看護に)身をくだきておぼし惑ふ」(『源氏物語』)。

 

自動表現は「くだけ(砕け)」。意味は、砕かれた状態になること。この活用語尾I音他動・E音自動の関係は、たとえば、「裂き」「裂け」・「解き」「解け」・「割り」「割れ」・「折り」「折れ」など。