◎「くじり(抉り)」(動詞)

「くちしひいり(朽ち強ひ入り)」。朽(く)ちを強(し)ひ、すなわち、何かを、命令に従わせるように強行的に、朽ちた(構成が崩壊した)状態にし、侵入していくこと。突き崩しながら穴を掘ったり、何かを取り出すためにそうした作業をしたりする。

「世界の(世の)男、貴(あて)なるも賤しきも、いかでこのかぐや姫を得てしがな、見てしがなと、おと(音)に聞きめでて惑(まと)ふ。……夜は安きいも寝ず、闇の夜に出(いで)て、穴をくじり、かひばみ(かいまみ:垣間見)、惑(まと)ひあへり」(『竹取物語』)。

「無量の衆生の法眼を挑(くじ)り壞(やぶ)る」(『地蔵十輪経』)。

 

◎「くしろ(釧)」

「けゐしろ(異居代)」。「け(異)」や「しろ(代)」はその項参照。「けゐしろ(異居代)→くしろ」は、「け(異)」なる「ゐ(居)」に、普段にない「居(ゐ)」に、なることを負うもの(「しろ(代)」に関し下記※)。つまり、それにより普段にはないあり方になるもの、ということであり、現代風に言えば、おしゃれになるアクセサリー、のような意。具体的には、腕のあたりにつけている環状のもの。様々なものがありますが、原形は貝を加工したものでしょう。

「我妹子(わぎもこ)は釧(くしろ:久志呂)にあらなむ左手の我が奥の手に巻きて去なましを」(万1766:釧だったらいいのに…)。

「其(そ)の女鳥王(めどりのみこ)の御手(みて)に纒(ま)かせる玉釧(たまくしろ)」(『古事記』仁徳天皇)。

「釧 ………比知万岐」(『和名類聚鈔』調度部中・服玩具:ここでは「ひぢまき(肘巻)」と言っている)。「真淵云、万葉にはくしろとのみ多くいへり、和名にひぢまきといへるは俗語なるべし」(『円珠庵雑記』頭書)。

 

※ この場合の「しろ(代)」は、「け(異)」なる居(ゐ)、普段にはない居(ゐ:あり方)の容認を負っているもの、という意味になる。たとえば「のりしろ(糊代):糊を塗る部分」は、糊の容認を負っている部分、糊の適格域、ですが、「けゐしろ(異居代)→くしろ」の場合の「しろ」はものであり、「け(異)」なる居(ゐ)、普段にはない居(ゐ:あり方)の容認を負っているもの、その適格物→普段にはないあり方になるもの、という意味になる。