◎「くじ(籤)」

「クジ(救事)」。「ク」は「救」の呉音(漢音は、キウ。意味は、すくふ、たすける)。「クジ(救事)」は、事(事態)を救(すく)うこと、その手続。意見の決着がつかない場合事態の困難を救うために行った抽籤(チウセン:「籤(セン)」を抽(ひ)くこと。「籤(セン)」は神意を問う札)を言う。漢字表記は「籤、䦰(キウ)、孔子」といった書き方をする(最後の「孔子」は儒学で有名な「コウシ」ではなく「くじ」と読む。これは、儒学で有名な人物の方の「孔子」も「クジ」と読まれることがあることによる日本での当て字でしょう)。現代でも、国会における院の内閣総理大臣指名においてや議員の当選者決定において、決定できないことの困難を救うため籤(くじ)が行われることがある。

「昨日小弓 東馬場殿庭 府大将見証 以孔子賦分左右(孔子を以て賦を左右に分く) 勝方……負方……」(『明月記』:「小弓」は小さな弓を射ち合う遊戯的競技。「賦分」は役割をわけたということ。「孔子」は上記のように「くじ(籤)」)。

「䦰 クジ」(『節用集』室町中期寫(龍門文庫)・伊勢本)。

 

◎「くじき(挫き)」(動詞)

「くちしひき(朽ち爲引き)→くじき」。朽(く)ちを爲(し)、朽ちた状態となり、引く、ということですが、どういうことかというと、足を痛め(捻挫などし)、足が朽ちてしまったようになり、すなわち不存在化し、その機能がなくなり、無力化し、引く(足を引いて移動する)、ということであり、これは足の故障、特に捻挫症状、を起源として生まれた動詞、ということです。この語が、何かを無機能化させ、無力化させることを広く意味するようになった。物的・肉体的なことにも、意思・心情的なことにも言う。

「其の腰を踏み折(くじ)きて殺しつ」(『日本書紀』垂仁天皇七年)。

「天皇(すめらみこと)、久(ひさ)しく邊裔(ほとり)に居(ま)しまして、悉(ことごとく)に百姓(おほみたから)の憂(うれ)へ苦(くるし)ぶることを知(しろ)しめせり。(百姓(おほみたから)が)恆(つね)に枉(ま)げ屈(くじ)かれたるを見(み)ては、四體(みみ:御身)を溝隍(みぞ)に納(なげい)るるが若(ごと)くおもほす」(『日本書紀』:天皇が久しく邊裔(ほとり)に居た、とは、昔、播磨の国の屯倉(みやけ)で使役されていたことを言う)。

「勢いをくじく」。「足を挫いた」。

◎「くじけ(挫け)」(動詞)

「くじき(挫き)」の自動表現。無機能化し、無力化した状態になること。折れたり曲がったりすることも言う。「手がくじけ」、「気持ちがくじけ」。「くじき(挫き)」の項参照。