◎「くさり(鎖り)」(動詞)
「くさ(種)」の動詞化。つまり「くさ(臭)」の動詞化、活用語尾R音によるその動態情況化、が「くさり(腐り)」であり、「くさ(種)」の動詞化が動詞の「くさり(鎖り)」。「くさ(種)」に関しては9月24日。「くさり(種り:鎖り)」は、連想的に、同種の何かが次々と繋(つな)がり居続くこと。物的にも言い、意味的・社会的にも言います。物的とは、たとえば、「関節部で骨がくさる」(これは、腐る、ではありません。物的に連絡する動態状態になっている)、意味的にとは、たとえば、「(漢詩において)上の句は次の第五句とくさり、下の句は次の第六句とくさる」(意味や表現内容として連絡し合う)。そうした連絡・連結状態になった形状のものが連用形名詞化たる「くさり(鎖)」(たいていは金属製の、やや横長の輪状のものが互いに交差するようにいくつも連結したもの)。
「水に流れ行く蛇(くちなは)どもの、この蘆(あし)にわづかに流れかかりて、次第にくさりつらなりつつ、いくらともなくわだかまり居たりけるが…」(『発心集』)。
「數百艘の舟どもつなをくさりて大津のうらに似たり」(『海道記』)。
「絡 ……クサル(リ)」(『類聚名義抄』)。「琑 ……久佐利 又 止良布 又 保太須」(『新撰字鏡』:「琑」は、些細な、わずらわしい、といった意味と思われるのですが、「鎖」と「銷」が勘違いされ「鎖」と同字として用いているということか)。
「心はやたけ(弥猛)に。たがひに下ではくさりあをふと」(『催情記(サイセイキ)』:「あをふ」は「あはふ(合はふ)」(正確に書けば「あはう(合はう):合はむ、の変化」)でしょうけれど、原文は「を」に見える)。
「浪曲を一(ひと)くさり」(話として連絡した部分)。
この動詞の漢字表記には「鏈り」「鏁り」「絡り」といったものもあります。「くさり(鎖)」(名詞)は漢字表記は「鎖」と書きますが、現代の中国語では「くさり」は「鏈(链):レン、リエン」が一般的なのではないでしょうか。この「鏈(链):レン、リエン」はもともとは金属名ですが、金属のものが連(つら)なっているという意味で、この語が「くさり」の意で用いられるようになった。
◎「鎖骨(サコツ)」
ちなみに、「鎖骨(サコツ)」という語があります。胴体前部の上部、首の付け根あたりから肩にかけてある骨です。これに関しては、『なぜ鎖(くさり)なんだ?』と思う人もいるかも知れませんが、この表現は江戸時代に蘭学(『解体新書』とか、あの世界です)において生まれたものであり、直接的には、オランダ語の 「Sleutel-been(スレウテルベーン):鍵(かぎ:鉤)脚(あし):曲がった脚ということでしょう、のような意。解剖学的に、この骨の形がそんな感じということでしょう」 の日本での漢語風の訳語であり(「鎖(サ)」は、それによってさまざまなものを閉ざすので、何かを閉ざす鍵(かぎ)という意味にもなる)、同時に中国にも「鎖子骨」といった表現はあり、それの影響ももしかしたらあるのかもしれません。中国にはこの骨の名として「缺盆骨(欠盆骨):「盆」はそのあたりがお盆のようにくぼんでいるから」という語もあります。では「鎖骨(サコツ)」と呼ばれる前に日本ではあの骨に名はなかったのかというと、『和名類聚鈔』に「𩩲𩨗 …二音曷亐針灸経云缺盆骨 肩骨也 和名加太乃保禰」(『和名類聚鈔』:「𩩲𩨗」は日本でよめば「カツウ」でしょう)とあります。つまり、鎖骨(サコツ)の和名は「かたのほね(加太乃保禰)」。