◎「くがね(黄金)」

「けひがね(気日金)」。感じられる「け(気)」が日のようである金属、の意。黄色く輝いているからです。漢語では「金(漢音、キン。呉音、コン)」。

「銀(しろがね)も金(くがね)も玉(たま)もなにせむに…」(万803)。

「善(よ)き事(こと)を 始(はじ)めたまひて くがねかも(久我祢可毛) たのしけく(多能之氣久)あらむと」(万4094:「たのしけく」に関しては「たしけし(形ク)」の項)。

これは奈良時代の語であり、平安時代には同じ金属を「こがね」と言う。これは「コンがね(金金)」でしょう。「コン」は「金」の呉音(「コンジキ(金色)」のそれ)。これは金色(キンいろ)の金(かね)という意味になる。「金 …コカ(が)ネ」(『類聚名義抄』)。

 

◎「くき(茎)」

「くきおひ(潜き生ひ)」。「きおひ」が「き」になっている。動詞「くき(潜き)」はその項。「くきおひ(潜き生ひ)→くき」は、地に潜(もぐ)ることと地上で生いる(育ち伸びる)ことの双方を行っている印象のもの、の意。草類植物の葉と花や実、根、以外の部分。

「大伴馬飼連(おほとものうまかひのむらじ)、百合(ゆり)の花(はな)を獻(たてまつ)れり。其(そ)の莖(くき)の長(なが)さ八尺(やさか)、其(そ)の本(もと)異(こと)にして末(すえ)連(あ)へり」(『日本書紀』)。

「莖 …和名久木 枝之主也」(『和名類聚鈔』)。

「くくたち(茎立)」という語があります。これは「くきおひ(潜き生ひ)」が「くこひ」のような音(オン)になり「くき」にも「くく」にもなっているということでしょう。意味は、茎が育っているものであり、それ自体が食用になることもある。

「上(かみ)つ毛野(けの) 佐野(さの)の茎立ち(くくたち:九久多知)折(を)りはやし…」(万3406)。

「蘴 …和名久々太知…蔓菁苗也」(『和名類聚鈔』:原文は「蘴」の下が「豊」になっている)。

 

◎「くき(洞)」

動詞「潜(く)き」の連用形名詞化。動詞「潜(く)き」は潜(もぐ)りこむことを意味しますが、「くき(洞)」は、地に、とくに斜面(山)の地に、人の想的動態として潜り込むような状態になったところ、すなわち、そこに空いている穴を言う。洞穴(ほらあな)です。「岫 …山穴似袖…和名久木」(『和名類聚鈔』)。

 

◎「くき(岫)」

「きゆき(牙行き)」。牙(きば)が進行する印象の地形の地。山の頂(いただき)、鋭利感のある山の峰を言う。

「嶂〓 峯也 高山之穪(称)也 久支」(『新撰字鏡』:「〓」は「巒」の上の部分の「小」が二つとも無い字。しかし、たぶんそれと同字)。

 

◎「くぎ(釘)」

「くききき(潜き効き)」。「くき(潜き)」はその項。「くききき(潜き効き)→くぎ」は、潜(もぐ)って効果が生じるもの、の意。その効果の主なものはそれを打ち込むことによる何かと何か(事実上木材)の接合です。鉄などで作られる、短めの細い(相当に太いものもありますが)棒であり、その先端を尖らせたもの。

「むらたまの樞(くる)にくぎ(久枳)刺(さ)し固(かた)めとし…」(万4390:「くる(枢)」や「くるる」は戸の開閉の際の戸の回転軸となる部材。クルクル回る印象だから)

「釘 ……和名久岐…䥫材也」 (『和名類聚鈔』:「䥫」は鉄)。

(参考)「栓 ……和名岐久木…木釘也」 (『和名類聚鈔』:「岐久木」は「きくぎ」でしょう。すべて音なら、キクボク)。