「きいらいひ(着苛言ひ)」。「い」は無音化した。「いら」は局点的に進行感のあること・ものを言い(→「いら(高)」の項・2020年3月24日)、秀でていること、尖っていること・ものなどを言います。草や木の刺(とげ)も「いら」と言います。「きいら(着苛)」は「着た刺(とげ:いら)」ということですが、後世で言えば、素肌に毛糸の衣類でも着、「ちくちくする」という状態になり、肌触りが不快であり、すぐにでも脱ぎ捨てたい状態になっている。そんな状態が「きいら(着苛)」です。つまり、肌触りが悪い。「Aを着苛言ひ→Aをきらひ」は、Aを「きいら(着苛)」に言うこと。そのように言う状態になること。「瀬(A)を早み」のように、「Aを+自動表現」の表現。「Aを+他動表現」の場合は「を」は目的を表現しますが、「Aを+自動表現」の場合、「を」は状態を表現します。つまり、「Aをきいらいひ(Aを着苛言ひ)→Aをきらひ」は、Aの状態で、Aの状態になって、着苛(きいら)を言うことであり、Aを着たくない、Aを脱ぎ捨てたい、という状態になることです。

「穢(きたな)き奴(やつこ)どもをきらひ賜(たま)ひ、棄て賜ふ(たま)によりて…」(『続日本紀』宣命19)。

「其構思狭隘に失するの嫌あるも、詞源混々として…」(『真善美日本人』:「構思」は「構想」と同じような意)。

 

この語の語源は「きる(切る)」に関連づけて考えられることが多いようですが、目立ったものはないです。