◎「きび(黍)」
「きひみ」の音変化。古くは「きみ」と言った。「きひみ」は「きひみ(来日見)」。誰もが(頻繁に)来て、日を見るもの、それが印象的であるもの、の意。日とは、実りの、そして収穫の、日であり、その時期です。なぜそれを頻繁に来て見るのかというと、この植物は実った実が非常に落ちやすく、それを逃すまいとその収穫の機会を注意深く確認する(とりわけ、雀などに食われる危険と被害が大きい)。草性植物の一種の名。その実は五穀の一にもなり食用になる(ただし、五穀に入るのは黍(きび)ではなく稗(ひえ)だとする説もある)。
「梨(なし)棗(なつめ)黍(きみ:寸三)に粟(あは)嗣(つ)ぎ…」(万3834)。
「黍 …キヒ」(『類聚名義抄』)。「丹黍 本草云丹黍 一名赤黍 一名黄黍奴 …和名阿賀木々美」(『和名類聚鈔』)。「秬黍 本草云秬黍 一名黒黍 …久呂木々美」(『和名類聚鈔』)。
この語の語源は古くは「黄実(きみ)」と言われたのですが、その「み(実)」は乙類表記であり、「きみ(黍)」の「み」は甲類表記であり、その語源説は今は否定されています(今でも、有力な語源説、と言われはしますが)。
◎「きびし(厳し)」(形ク・シク)
「いきいみひし(息忌みひし)」。語頭の「い」は脱落。「ひし」は密集や密着の状態を表現する擬態。息を忌むことに密集感がある、とは、息詰まる、ということです。見たり聞いたりしていて息詰まるような思いがしていることを表現し、ものが密集していることやことが過酷であることを表現する。これによる「いきいみひし→きびし」がそのまま形容詞と受け取られ「きびく」という連体形表現も現れ、「きびし」を形容詞化し「きびしく」という連体形表現も生じた。つまり、ク活用もシク活用も生じた。
「歯は白きこと斉(ひと)しく密(きび)く珂(たま)と雪との猶(ごと)し」(『金光明最勝王経』平安初期点:これはク活用)。
「弾正をは霜台と云そ、きひくはげしう事をただす官ぢゃほどにぞ」(『百丈清規抄』:これもク活用)。
「松きびしく生ひつづき(松が密生して生ひ続き)」。「見張りがきびしく」。「練習がきびしい」。
◎「きはどし」(形ク)
「きはでおほし(際出多し)」。際(きは:限界)の出(で)が、出現が、多い。許容・忍耐し得る限度・限界を感じさせ、それを超えるのではないか、と予感させ不安や危惧を感じさせることが多々ある。
「カカリケルホドニコノ頼長ノ公、日本第一大学生、和漢ノ才ニトミテ、ハラアシクヨロヅニキハドキ人ナリケルガ…」(『愚管抄』)。
「きわどい」が公然性への抑制が働く、性的なこと(エロや猥褻と言われること)に関する表現に言われることが多いのは、その場合に公然性への矛盾誘引が強く働くから、つまり、「きは(際)」であること(越えられない限界であること)とないことの矛盾が強く働くから、でしょう。すなわち、公的には公然性を維持したい、私的には公然性を維持したくない(自分だけは見たい聞きたい)。
「きはどし」の語源は「きは(際)とし(利し・鋭し・疾し)」であることが常識のようになっていると思われます。この表現は、際(きは)が明瞭に、強力に、強く、作用する、という意味になりますが、しかし、「きはどし」は際(きは:限界)が強く働き抑制的、という意味でもなく、他者や何ごとかへの抑制が強く働くという意味でもない。