◎「きのふ(昨日)」

「きいぬるひをへゐ(来去ぬる日を経居)」。「ぬるひを」がR音が退行化しつつ「ぬほ」のような音(オン)を経つつ「の」になり「へゐ」が「ふ」になっている。「を」は助詞ですが、状態を表現する。来て去った日(太陽)を経過している有り、その日(当日)、の意。来て去った日(太陽)の経験は無数にあるわけですが、「いぬ(去ぬ)」が言語活動現在のそれである「ひ(日)」は前日の日(ひ)です。すなわち「きいぬるひをへゐ(来去ぬる日を経居)→きのふ」は、今日を基点としてその前日。

この語は方言にさまざまな微妙な変化がありますが、語頭が「きん~」になる語が多いです。

「葦鴨(あしがも)の集騒(すだ)く旧江(ふるえ)に一昨日(をとつひ)もきのふ(伎能敷)もありつ」(万4011)。

「きのふも今日(けふ)」も見つれども」(万1014)。

「きのふこそさなへとりしかいつのまにいなはそよきて秋風の吹く」(『古今集』)。

 

◎「きのこ(茸)」

「くひのこ(杭の子)」。「こ(子)」は愛称として付されている。杭(くひ)のように立っている子、の意。その形態印象による名。大型の菌類の総称です。日本では松茸(まつたけ)や椎茸(しひたけ)などが良く知られます。古くは「たけ(茸)」という言い方が一般的であり、「くさひら」とも言う。「菌茸 ……和名皆多介」(『和名類聚鈔』:「多介」は「たけ」。『和名類聚鈔』(1000年代末ごろ)のここに和名「きのこ」は書かれていない)。「たけとはきのこ」(『女中詞』)。 「菌 キノコ」(「節用集」(饅頭屋本:室町時代(1338~1588(足利義昭死去の年)年)末期))。

「栮 キノコ」(『類聚名義抄』:原書は字が一部消え判読は非常に困難ですが、正宗敦夫の『類聚名義抄 假名索引』は「キノコ」と読んでいる。確かにそうも読める。この「きのこ」は、木の子、であり、キクラゲでしょう(キクラゲは倒木枯木に生える)。中国語で「木耳」はキクラゲであり、「栮」の字を説明する中国の書にも「生枯木上,形如耳」とある)。「菌 …タケ クサヒラ」「菌茸 タケ」(『類聚名義抄』:同書『類聚名義抄』のこの部分に「キノコ」はない。また『類聚名義抄』には「木菌 キノタケ」なる項もあり、木に生えるキノコが一般的に「キノコ」だったわけでもない)。現在、「きのこ(茸)」の語源は「木(き)の子(こ)」であることが定説になっています。