◎「きたひ(腊)」
「ひきといはひ(日着と祝ひ)」。語頭の「ひ」は退化した。「ひきといはひ(日着と祝ひ)→きたひ」は、日(ひ)を着(き)るように、日を被(かうむ)りその影響・効果を得るようにと祝(いは)ふ、こと。「いはひ(祝ひ)」は人智の及ばない経験経過情況が動態感をもって作用すること(→「いはひ(祝ひ)」の項)。つまり、「きたひ」は、何かに対し、日(ひ)の効果、その力、という人智の及ばない経験経過情況が動態感をもって作用すること。「Aをいはひ」は、Aに関しそうなることであり、たとえば「肉をきたひ」は、肉に関し日(ひ)の効果、その力、という人智の及ばない経験経過情況が動態感をもって作用する状態になること。具体的には、肉を日に当て、当て続け(その間、神への供物のように大事に扱い)、肉に人智の及ばない日の作用、その効果、その力を得させる。要するに「ほしにく(干し肉)」を作るわけですが、「ほし(干し)」は水分をなくすことであり、そこで行われることはただ水分を無くすことではありません。それは結果的にそうなるということ。
「腊 岐太比 乾肉也」(『和名類聚鈔』)。「腊 キタヒ・フ」(『新撰字鏡』:「ヒ」の横に「フ」とも書かれる(つまり、名詞も動詞もある))。「𣈏 ホス キタフ」(『新撰字鏡』:これは動詞)。
万3886に「時賞毛々々々」という部分があり、この部分は一般に「時」が「腊」に書き変えられ「きたひ賞(はや)すも きたひ賞(はや)すも」(干物の蟹にして味わう、といった意味らしい)と読まれていますが、『類聚名義抄』の「賞」の読みに「モテアソフ」がある。『新撰字鏡』には「賞 …賜也 喜也」とある。「時賞」は、時を喜ぶ、時を得、悦び蟹を扱う、ということであり、「時賞毛々々々」は「もてあそぶも もてあそぶも」でしょう。意味は、「も」は詠嘆であり、まぁいいように私をもてあそぶこと(これは蟹の身になっている歌)、ということ。
◎「きたし(堅塩)」
「ひきたし(引き足し)」。「ひ」は消音化した。調理で味をつける際、湯から引き、様子を見つつまた足しを繰り返すもの、の意。塩の塊(かたまり:ある程度の大きさの塩の結晶)。
「堅盬 此云歧拕志」(『日本書紀』)。
「黒盬 崔禹錫食経云 石盬 一名 白盬 又有黒盬 今案俗呼黒盬爲堅盬日本紀私記云堅盬 木多師」(『和名類聚鈔』)。