◎「きさく」
「キさく(気さく)」。「さく」は擬態表現であり、「さくさく」のそれ。この「さく」は異物の破壊、それも動的に進行する抵抗の希薄な、柔らかに、軽やかに進行する破壊感を表現し(→「さくさく」の項・下記)、人から感じられる「気(キ)」が「さく」である、「気(キ)」が「さくさく」している、とは、心地よい柔らかな破壊感を感じるということであり、その破壊感は開放感にもなる。「きさくな人」は、そうした、ものごとにこだわらない、心地よい柔らかな破壊感・開放感を感じさせるような人。「きさくな買ひ手」(値などにこだわってしつこく値下げ交渉をしたりせずそのまま言い値で買ってしまうサッパリとした気性の買い手)。「きさくなもてなし」。
◎「さくさく」
この「さ」は、基本はS音の動感とA音の全体感・情況感によるものですが、動態に客観的な対象性がある場合、その動感が相対的な異動態感、異物感、障害感にもなり(→「刺(さ)し」「鎖(さ)し」など)、この異物感・障害感と動感が同時に表現された場合、異物の破壊、それも動的に進行する抵抗の希薄な、柔らかに、軽やかに進行する破壊となり、「さくさく」はそれを表現する擬態となります。たとえば「梨をさくさくと噛む」、「白菜をさくさくと切る」。「白く新らしき桶に水を入れて、此の釜どもにさくさくと入(いる)る」(『宇治拾遺物語』)といった表現もありますが、この「さ」は動感だけの表現。情況全的に、それゆえに抵抗感なく、水が流れます。
この「さく」はク活用形容詞の語幹にもなっており、「さくい」という言い方をする。「Sacui. ……¶Sacui fito. Hõbre viuo. y expedito.」(『日葡辞書』:さくい……¶さくいひと。快活でてきぱきした人)。この「さくい」には、こわれやすい、もろい、といった意味の方言もある。
◎「きさげ(刮げ)」(動詞)
「きしあげ(きし上げ)」。「きし」は「きしみ(軋み)」などにもあるような、強い摩擦を生じつつ擦(こす)る状態を表現する擬態。「~あげ(~上げ)」は、「しあげ(仕上げ)」その他にあるような、動態に完成感、それゆえの終了感、を生じさせること。つまり、「きしあげ(きし上げ)→きさげ」は、何かに強い摩擦を生じつつ擦(こす)るような動態を全的完成感をもって、完璧にそうする状態で、そうすること。何かに、そうした作業に適した何かを、密着させ、こするようにし、何かを得たりもし、その場合は「けづる(削る)」という意味にもなるわけですが、その作業によりそうされた何かの表面はなめらかになり、それは「みがく(磨く)」のような意味にもなる。つまり「きさげ(刮げ)」は、削(けづ)る、と、磨(みが)く、を兼ねたような作業を意味する。その場合、「きさげ」られるのは(宝玉などの)石や金属もあり、象牙や様々な動物の角などもある。金属や石の表面をなめらかにする「きさげ」という工具もあり、「きさげ加工」は現代の精密機械製作でも重要な技術になっています。
「爾(ここ)に𧏛貝比賣(さきがひひめ)、岐佐宜(きさげ) 此三字以音 集(あつ)めて、蛤貝比賣(うむがひひめ)、待(ま)ち承(う)けて、母(おも)の乳汁(ちしる)を塗(ぬ)りしかば…」(『古事記』:これは何をあつめているのかよくわかりません。ただ、描写は貝を擬人化したようになっており、これは火傷の治療ですが、赤貝の殻を削り粉状にしたものを蛤(はまぐり)の汁で溶き、傷に塗ったらしい)。
「刮 …削也 祢夫留(ねぶる) 又介豆㐬(けづる) 又木佐久(きさく)」(『新撰字鏡』)。
「鐫 ……キサグ ヱル」(『類聚名義抄』:「ヱル」は「彫る」)。