◎「きさ(象)」

「きしいは(牙爲岩)」。「しいは」が「しは」のような音を経つつ「さ」になっている。「きしいは(牙爲岩)→きさ」は、牙(きば)のある「しいは(爲岩)」。「しいは(爲岩)」は、爲(し)ている岩(いは)、動いている岩、という表現。それに特徴的な牙(きば)が生えている。この「きさ」は動物名「ザウ(象)」の古名ですが、これが現物を実際に見たことによるものなのか、聞いたり絵を見たりの伝聞によるものなのかは不明です。しかし、900年代の辞書に象(きさ)に関し「大耳、長鼻、眼細、牙長」と書かれているわけですから、その頃に少なくとも伝聞はあったことは確かです。動物の一種の名(古名)。「象 …和名岐佐 獣名似水牛大耳長鼻眼細牙長者也」(『和名類聚鈔』)。「象 キサ カタチ……カタトル」(『類聚名義抄』:「象」という漢字は動物名でもあり「カタチ」でもあるということ)。

 

◎「きさ(木紋)」

「きしわ(木皺)」。樹木の断面の皺のように見える模様状の組織。「モクめ(木目)」とも言い「木理」とも書きます。

「橒 ……漢語抄云木佐……木文也」(『和名類聚鈔』)。

貝の一種たる赤貝(あかがひ)も「きさ(蚶)」と言う。これは貝殻の模様が上記の「きさ」を思わせるから。

「蚶 ……和名木佐……圓而厚外有理縦横」(『和名類聚鈔』)。

 

◎「きざ(気障)」

「キにざ(気荷座)」。気(キ)の荷(に)のあり場所、ということであり、気になること、のような意ですが、さらには、気になり心的に負担になり不快、のような意にも発展しています。

「きざとは心がかりなることなり」(「洒落本」『魂胆葱勘定』:これはこの書の「遊里言葉遣ひの事」という項目のなかにあり、この語は江戸時代に遊里から生まれている語であるらしい)。

「黒さんがいふにゃア、どうもてめへにゃア忠といふきざがついて居るから」(「洒落本」)。

「其すうすうとすすり込む音が何分気障(キザ)だ」(「滑稽本」)。

「凡そ何が気障(キザ)だって、思はせ振りの、涙や、煩悶や、真面目や…」(『それから』夏目漱石)。

この語は一般に「きざはり(気障り)」の略と言われます。しかし、たとえば「めざはり(目障り)」が「めざ」になるような略語は不自然に思われます。