「から」の項参照(6月28日)。

「から」の「相互的に、それがなければ生存しない、生体として存在しない、状態になること」(「から」の項)は「AからB」の「A」「B」が動態や事象・情況であっても起こります。そして、それは「A」は「B」の、それがなければ「B」として事象として生存しない、存在しない、ものやことであることが表現され、たとえば「Aから~」で「~」が動態の場合、Aは動態の起点、材料(作業起点)、原因(原因たる理由)・動因、といったことの表現になる。「家から来る」(起点)、「豆腐は大豆から作る」(材料)、「(子が)我がからに泣き」(私が原因で。私のために)、「会ふ人からの秋の夜」(『古今集』:会ふ人が原因の、会ふ人による、秋の夜。秋の夜は会ふ人によって長くも短くもなる)、「己が身のから人の(自身之柄 人子之)子の言(こと:原文は、事)も尽さじ」(万3799:この「身のから」の「の」は、「どんな傘がいい?」「赤いのがいい」などと言う場合の「の」であり、「の」で代名詞的に何かを表現する。この場合に表現されているのは言(こと)であり事(こと)。すなわち、「己が身のから人の子の言(こと)も尽さじ」は、己が身のから→尽さじ、であり、己が身のそれがなければ動態生態として存在せずに人の子の言を尽くすことがない、己が身たるそれとして、自分の身となって、人としての言葉を尽くすことは無い→何も言えない((万3791の長い歌を聞いて)私は自分が一人前の事を言えるような者ではないことを悟りました(あなたのおっしゃる通りです))。「一夜のからに恋ひわたる」(一夜の出来事(出会ひ)により恋ひ続ける)。古くは手段・方法も表現した。「徒歩(かち)からまかり」(徒歩で行き)。

「から」の前後が文になることもある。「そういうことを言うからあの人に嫌われるのよ」(「そういうことを言う」という事象から「あの人に嫌われる」という事象が現れるような表現)。「だから言ったでしょ?」(動因。言ふという行為がどのようにして起こったのかその原因)。「どうしてぶったの?」「あいつが悪口言ったから」(原因)。

「無事に帰る」のように、「帰る」という動態がどのようなものかを表現する、いわゆる副詞的(動態がどのようなものであるか表現する)と言われる、「に」がありますが、それによる「A(動態や心情)からに~」という表現がある。「A」が「~」の事象存在要件としてあることが表現される。「見るからに強そう」(「強そう」という印象が「見る」という動態を事象存在要件としてあることが表現される)。「吹くからに秋の草木のしをるれば…」(『古今集』:しをれる、ということが吹くことを事象存在要件としてあるから、と言っている)。「君が目の恋(こほ)しきからに泊(は)てていて…」(『日本書紀』歌謡123:泊まり続けていることがある人の目が恋しいことを事象存在要件としてあること、一目会いたいから、であること、ただそれだけのことからなのであること、が表現される)。「A(動態)からに~」でAが推量である場合、「A」は「~」の事象存在要件たる原因や理由を推量する。「帝(みかど)の御子ならむからに見む人の褒めがちなり」(『源氏物語』)。「~」が結果であることもある。「かくのみからに慕(した)ひ来し妹(いも)が心の…」(万796:こんなことになるのに慕い来た…。これは妻が亡くなった際の歌。「妹」とは亡くなった妻)。