◎「かゆ(粥)」
「かひゆ(交ひ湯)」。「ひ」の脱落。湯と交流させたもの、の意。何を交流させるかというと、米などです。つまり、器に米など(後には米が粥の材料のような状態になりますが、元来は米以外の粥もある)と水を入れ熱を加えたもの。米などを蒸すことに対し独立した名。つまり、「かゆ(粥)」は原意的には調理法の名であり、それがその調理法によりできた食べ物の名になった。ここから後世の「かゆ(粥)」と技術的に完成した炊いた飯(めし)が別れる。そして炊いた飯が独立した後も「かゆ」の名は残る。
すなわち、米を食用にする方法として「ふかす(蒸かす)」「かしく(炊く)」「むす(蒸す)」といったことが行われたわけですが、これらは米を湯気にあて加熱するものであり、それ以外に、容器に水を入れ、米を入れ加熱する、すなわち米を煮る、ことも行われ、この方法で調理された米が「かひゆ(交ひ湯)→かゆ」であり、この調理法から「たく(炊く)」という洗練された方法が完成していき、これが「いひ(飯)」の主流になった後も「かゆ(粥)」は残ったということ。つまり、「かゆ(粥)」は、水で煮た米(麦などでもよいが)のうち炊かれていないもの、ということになります。
「粥 唐韻云饘(セン) 諸延反 和名加太賀由 厚粥也 四声字苑云周人呼粥也 粥(シュク) 之叔反 和名之留加由 薄糜(ビ)也」(『和名類聚鈔』:つまり、日本では、「粥」は「かたかゆ(固粥)」でも「しるかゆ(汁粥)」でもあるということです(中国の書には、「厚」が「饘」で「希」が「粥」だ、という説明もあります)。「かたかゆ(固粥)」の実体は炊いた飯のようなものかもしれません。この『和名類聚鈔』のころ(1100年ころ)は「かま(釜)」という語は一般化していませんが、「かしくかなへ(炊く金器)」という語はある(→「かま(釜)」の項・6月6日)。この「かしくかなへ(炊く金器)」が、「かしく(炊く)」が米を調理すること一般を意味しつつ(※)、飯を炊く専用器に、つまり「かま(釜)」に、なっていくということでしょう)。
※ 「かしき(炊き)」の原意は米を「ふかす」ことですが、これは、米を柔らかくすることであり、米を湯の熱い蒸気にあてることだけではなく、水につけておくことも言ったかもしれません(すくなくとも、「かしく(炊く)」という作業の中にそれも入っていたかもしれません)。
◎「かゆし(痒し)」(形ク)
「かやうし(痒や憂し)」。「かや(痒や)」は「か(蚊)」の項。痒(かゆ)くて鬱陶しい状態であること。
「眉(まゆ)かゆみ思ひしことは君にしありけり」(万2809:眉が痒くなり思ったことはあなただった。眉が痒くなると思う人がやって来るという俗信があったようです。「かゆみ」は「かゆし」の語幹による動詞。痒い状態になること)。