◎「かもし(醸し)」(動詞)
「かもよほし(香催し)」。「もよほし(催し)」は準備や兆(きざ)しを生じさせること(その項)。「かもよほし(香催し)→かもし」は、香の(発酵の)兆しを生じさせること。原意としては、発酵を、酒造りを、促しすすめることですが、それに比喩した用い方もなされます→「独特の雰囲気をかもし出す」、「物議をかもす」。
「醸 カモス 醸酒」(『運歩色葉集』(1500年代中頃成立))。
◎「かもめ(鴎)」
「かまほまへ(鎌帆舞へ)」。「まへ(舞へ)」は「まひ(舞ひ)」の他動表現。「かま(鎌)」のような形態の帆(ほ)を空に舞はすもの、の意。鳥の一種の名。「かま(鎌)」のような形態の帆(ほ)を空に舞はす、とは、たとえばこの鳥のホバリング(空中に静止浮遊しているような状態になること)。この鳥が空を舞う際の羽を鎌に見立てた表現。『万葉集』の歌(万2)にある「かまめ」は「かまはまへ(鎌羽舞へ)」でしょう。
「海原(うなはら)はかまめ(加萬目)立ち立つ」(万2)。
「鷗 …和名加毛米 水鳥也…」(『和名類聚鈔』)。
◎「かもゐ(鴨居)」
この語は「かもえ」とも言う。「かもえ」は「こやもゆるへ(小屋萌ゆる辺)」。「る」の子音は退行化した。この場合の「こや(小屋)」は、大きな「や(屋)」内部の、その中の小さな独立域部分。「もえ(萌え)」は発生し現れることですが、「へ(辺)」は「へだて(隔て:辺立て)」の「へ(辺)」であり、「こやもゆるへ(小屋萌ゆる辺)→かもえ」、小屋(家内部の小さな独立域)を現す隔(へだ)てをなすもの、とは、家内部の一部を(そこだけが区切られ独立した)部屋にするもの、ということです。たとえば、内部に幾本も柱が立っている大きな家もそれだけでは内部は一つの部屋です。しかしその柱と柱の間に、簾(みす)や幕(まく)を設置する、あるいはそこに襖(ふすま)や障子(しょうじ)を設置する、あるいは壁(かべ)をつくる、といったことをするとそれに囲まれた内部は独立域となり部屋(へや)となる。柱と柱間上部に設置し、その「部屋(へや)」を、家内部の独立域を、萌えさせる、発生させる、建具が「かもえ」。これは「かもゐ」とも言う。「かもゐ」は「こやもゆるゐ(小屋萌ゆる居)」。人が、そこが部屋であるような思いになるもの、ということ。家内部の、柱と柱上部に設置される建具であり、さまざまな彫り物がなされたり組み木細工が施されたりもします。「かもゐ」は漢字表記は一般に「鴨居」と書く。
「鴨柄 … 賀毛江…」(『和名類聚鈔』)。
「鴨居 カモイ」(『運歩色葉集』)。
◎「かや(草)」
「か」は「きは(牙葉)」。牙(きば)状の細く長い草の葉を表す。つまり「か」はそうした状態の草の葉を表す。「や」は「屋」。その「か(牙葉)」によって屋根を葺(ふ)いた住居を「きはや(牙葉屋)→かや(草屋)」と呼び(縄文時代の遺跡として再現されるような住居です)、その材料も「かや」と呼ばれ、やがて柱が立てられ屋根が上へあがっても屋根が葺かれたその屋根材は「かや」と呼ばれた(屋根部分だけが「や(屋)」であるかのような呼び方です)。すなわち、「かや」は、住居の屋根を葺く材料として用いられる細めの帯状の長めの草の葉をいう。そしてそのような植物も「かや」と呼ばれた。具体的には薄(すすき)や菅(すげ)や茅萱(ちがや)などです。
「爾(ここに)卽(すなはち)其(そ)の海邊(うみべ)の波限(なぎさ)に、鵜(う)の羽(は)を葺草にして、產殿(うぶや)を造(つく)りき。…………波限を訓(よ)みて那藝佐と云ふ、葺草を訓(よ)みて加夜(かや)と云(い)ふ」(『古事記』:これは鵜葺草葺不合命(うがやふきあへずのみこと)誕生の際の話)。
◎「がやがや」
「けわや(気わや)」の反復。「わ」は「わき(沸き)」にあるそれであり、「や」は感嘆を表現する。それにより「け(気)」が沸(わ)くように感じられる(反復ゆえにそれが深く大きく)、という感嘆を表現する。昔は「かやかや」とも言った(とも言った、というよりも、そう書かれただけかもしれない。現代なら、木の床に重く固い物をひきずり「ゴーゴー」とでも書きそうなその擬音を平安時代には「こほこほ」と書いたりする)。
「御随身どもかやかやと言ふを制し給て」(『源氏物語』)。