◎「かも(鴨)」
「かみみよ(髪御夜)」。これは鳥の一種の名ですが、その牡(おす)の頭部が美しい夜に見えることによる名。なぜ、夜ではなく、「みよ(御夜)」なのかといえば、その羽色が、遠方からは一見黒にも見えるが、見事な美しい濃緑色だからである。鳥の一種の名。「緑の黒髪」という表現は漢語の影響によるもの(「緑髪」の訓読み)と言われますが(下記※)、真鴨(まがも)の雄(おす)の頭部の色の印象によるものかもしれません。
※ 「緑」は『説文』に「帛青黃色也」(「帛」は絹(きぬ))と書かれるような字ですが、これが、つややかに輝く、のような意で用いられたということでしょうか。「緑髪」という言葉はあまり聞かないと思うのですが、「緑鬢」という表現はあります。「鬢(ビン)」は『説文』に「頰髮也」。「緑光度玄天」といった表現もあります。これも、緑色(みどりいろ)の光というよりも、つややかに輝く光、という意味かもしれません。
「葦べゆく鴨の羽音の聲(おと)のみに…」(万3090)。
「鴨 …楊氏漢語抄云鳬(フ)鷖(エイ) 加毛 下音烏(ヲ)嵆(ケイ)反」(『和名類聚鈔』)。
◎「かも(毳)」
「けあみもの(毛編み物)」。けあみもの→けあみも→かも。毛織物。
「氈 …和名賀毛 毛席撚毛為席也」(『和名類聚鈔』:毛織の敷物ということでしょう)。
この語は「かもしか(羚羊)」の「かも」でもある。
◎「かもしか(羚羊)」
古くは「かましし」と言った。これは「けやましし(毛山獣)」。毛深い山の獣、の意。「かもしし」とも言った。「かも」は毛織物のこと→「かも(毳)」の項(上記)。「かも(毳)」を作る獣(しし)、の意。これに「しか(鹿)」という表現が加わり「かもしか」。「しか(鹿)」はその項。
「『岩の上(へ)に小猿米焼く米だにも食(た)げて通らせ歌麻之之(かましし)の老翁(をぢ)』(謡(わざうた))………………時(とき)の人(ひと)、前(さき)の謠(わざうた)の應(こたへ)を說(と)きて曰(いは)く。…………『「渠梅拕儞母、陀礙底騰褒羅栖 柯麻之々能鳴膩(こめだにもたげてとほらせ かまししのをぢ)」といふを以(もち)ては、而喩山背王(やましろのみこ)の頭髮(みぐし)斑雜毛(ふふき)にして山羊(かましし)に似(に)たるに喩(たと)ふ……』といふ」(『日本書紀』)。
「麢羊 …和名加万之々 大於羊而大角者也」(『和名類聚鈔』)。
「麢羊 かもしか」(『和漢三才図会』)。