◎「かみ(噛み)」(動詞)

「こはみ(凝食み)」。「はみ(食み)」(その項:「は(歯)」の動詞化。歯(は)による意思努力を表現する)に動態の凝固感・凝縮感を表現する、動詞「こり(凝り)」にもある、「こ」が加わった表現。「こ」はK音の交感とO音の目標感・遊離感により客観的な凝固感・凝縮感、質的な濃密感・濃縮感が生じる。交感に存在感が生じる。「こはみ(凝食み)→かみ」は、凝固感・凝縮感をもって「はむ(食む)」こと。凝固的・固定的に、「はみ食み)」を行った何かと自己が固定的・凝固的になる動態で、「はむ(食む)」こと。生体の自然的な動態展開として、何かに対する「はみ(食み)」に食い込むような力が加わり、さらにはこれを圧し切るように切断したり圧し擦り潰すようにしたりすることもある。それによる粉砕や切断を明瞭に表現するには「かみきる(噛み切る)」や「かみくだく(噛み砕く)」と言います。

「十拳釼(とつかつるぎ)を……三段(みきだ)に打ち折りて……さがみにかみて…」(『古事記』)。

「犬にかみつかれる」。

 

◎「かみ(醸み)」(動詞)

「かみ(香み)」。「か(香)」の動詞化。この「み」はM音の意思動態感とI音の進行感により、情況や動態が意思動態として表現されるそれ。「早み→瀬を早み」その他にあるようなそれ。すなわち、「かみ(香み)」は元来は、酒をかみ、という表現がいきなり生まれたわけではなく、果実なり穀物なりが香(か)み(香がたち)、という自動的な表現があり、これが、その自然現象を人が生じさせることを表現するようになり、酒かみ、とも言われるようになったのでしょう。意味はアルコール発酵させること。つまり、酒をつくること。

この動詞の語源は「かみ(噛み)」であり、米を噛(か)んだものを溜め、しばらく置き、酒を作ったから、と言われることが非常に多い。たしかにそうしたことも行われたようですが、はじめから、そうすれば酒ができることがわかっていて米を噛んでためるなどということはあり得ないわけであり、乳幼児のためにそのような食べ物をつくっておき、忘れたころに香りが立ち始めたということでしょうか、しかしそれが、だれでも飲むような一般的なものになりそのために作るかは疑わしい(酒の起源はいつ誰が作ったなどということはわからない、自然発生的、経験伝承的なものです)。

「須須許理(すすこり:人名)が醸(か)みし御酒(みき)に我酔(ゑ)ひにけり…」(『古事記』)。

「大神御粮枯而生糆即令醸酒以献庭酒而宴之(大神(おほかみ)の御粮(おもの)枯(か)れ(かび)生(は)えき。すなはち酒(さけ)醸(か)ましめ、庭酒(にはざけ)献(たてまつり)宴(うたげ)す」(『播磨国風土記』宍禾(しさは)郡・比治(ひぢ)里・庭音(にはおと)村:この読みは絶対というわけではありません。「庭酒(にはざけ)」の「には(庭)」はなんらかの特別な利用がなされる特別域ですが、神事の庭に祀られるような酒、ということでしょう。そしてその酒で、まるで神とともに飲むかのように、宴もなされた。問題は「糆」の字ですが、これは「麵(麺)」、その正字「麪」、と意味の変わらない字のようです(音(オン)はすべて「面(メン)」の音(オン))。つまり、麦などの、粉(こな)。その「糆」が、生えた、とは、有益な黴(かび)が生えたのでしょう。経験的に酒づくりに有益な黴(かび)が)。

「大隅国ニハ一家ニ水ト米トヲ設(マウ)ケテ……男女一所ニ集リテ、米ヲカミテサカブネニハキ入レテ、……酒ノ香イデクル時、又集リテ、カミテハキ入レシ者ドモ、是ヲ飲ム。名ヅケテクチガミノ酒ト云フト云々、風土記ニ見エタリ」(「大隅国風土記」逸文・『塵袋』:こうしたことから、「醸(か)み」は「噛(か)み」とも言われるわけですが、ここでは自分たちがかんだ酒を自分で飲み、しかも、それをやっているのは若い男女です。見知らぬ者が「かんだ」酒を飲んでいるわけではありません)。