「けあみ(毛編み)」。材料たる植物繊維を「け(毛)」と表現し、「あみ(編み)」は何かに全的完成感を生じさせる努力をすること、部分となるなにかを集め、その部分が集まることによって完成される何かを完成させる努力をすることであり、「けあみ(毛編み)→かみ」は、「け(毛)」と表現されたその材料たる植物繊維を一体化しそれにより全体的完成感を生じさせたもの。
ちなみに、「シ(紙):中華人民共和国音「ジ」」という中国語は、「糸」(繊維)でその内容が表現されるところの、木その他を破砕し繊維状になったものを煮たり水に漬けたりしたものを食用にしたことが起源でしょう。その放置された汁が自然乾燥し、薄膜状のものができ、これが剥がされ、これもさまざまな用途に用いられ、これも「シ(紙)」と呼ばれた。「紙」という字にある「氏」の象(かたち)は匙(さじ)の象形とする説がある(加藤常賢著『漢字の起源』)。「氏」と「是」は同音です。「是」は「匙(日本での読み「サジ(茶匙)」:漢音「シ」:中華人民共和国音「チ」)」の原字です。すなわち「紙」の字は繊維と匙(さじ)の象形。語音「シ」は汁物を啜(すす)り食う際に発する音の擬音。
ちなみに、日本語で「うぢ(氏)」と読まれる「氏」は「枝」の影響によるもの。祖先以来の血統関係を樹木にたとえ、根幹となる幹から枝分かれした人々が「枝(シ):氏(シ)」だということ。「枝(中華人民共和国音「ジ」)」と同音の「氏」もある。この「枝」や「氏」は「汁」と同音((拼音(ピンイン)表記で「ㄓ」、アルファベット表記で「zhi」(中華人民共和国音で))。「汁(シフ)」は液体であり、とくに液体状の食べ物を意味する。血族関係たるその「シ(枝)」が「氏」という文字で、すなわち匙(さじ)の象形で(下記※)、書かれるのは一族はみなでともに食う関係にあるから。後世で言えば「なべ(鍋)」たる煮炊きの道具が中国では神器となり帝位の象徴にもなることは「かなへ(鼎)」の項でふれましたが、漢族とはそういうものなのです。漢族においては、後に「なべ(鍋)」と呼ばれることが一般化する煮炊きの道具が帝位の象徴であり、食う道具たる匙(さじ)が一族にあることの象徴なのです。
中国では紙(かみ)は二世紀に蔡倫が作ったと言われているわけですが、蔡倫が生まれる前から「紙(シ)」という言葉はありそのものもあることは考古学的遺物から確認されています。蔡倫が行ったことは、庶民の間で用いられていた「紙(シ)」を見た目よく作り皇帝に献上し自分の創作物であるかのような顔をしたということでしょう。
要するに、「かみ(紙)」は中国で食べ物として作られ、そこからある日偶然できていたということです。
「紙 ……和名加美」(『和名類聚鈔』)。
※ 『説文』の「氏」の説明に「巴蜀(ハショク:四川省)山名岸脅之㫄(傍)箸欲落𡐦(堕)者曰氏,氏崩,聞數百里」(四川省の山の名岸、旁著して落墮せんとするものを「氏」という。「氏」が崩れると数百里に聞こえる?)という意味の分かりにくい一文があります。しかし、巴蜀の山岸が崩れ落ちようとしているのが「氏」だ、「氏」が崩れるとその音は数百里に聞こえる、といったようなことは言っているでしょう。これは多くの人達がともにものを食っている際の、ものをすすり食う音を言ったものでしょう。