「かぶろ(禿)」という言葉には基本的に二種あります。
(a)「けわびうろ(毛侘びうろ)」。「わび(侘び)」はさみしいこと。「うろ」は不安定なこと。これは毛が寂しく不安定なこと、すなわち、「はげ(禿げ・剥げ):毛がほとんどなかったり、全くなかったりすること」を意味します。
「…秦の始皇の時に、天竺より僧渡れり………国王、此れを見て、問給はく、『汝は、此れ何(いか)なる者ぞ。何れの国より来れるぞ。見るに、其の姿、極て怪し。頭の髪無くして禿(かぶろ)也…』」(『今昔物語』)。
「禿 加不路」(『和名類聚鈔』)。「禿(トク)」に関しては『説文』に「無髮也」。
(b)「かはびうろ(川びうろ)」。「かはび(川び)」は川のようであること。「うろ」は不安定なこと。「かはびうろ(川びうろ)」は、毛髪が川のように流れ不安定に揺れること。ただ真っすぐに流れ切りそろえ垂れた髪型を意味します。基本的には髪型を表現しているのですが、古く、幼い子がそうした髪型であったことから、この語には「子供」の印象がある。
後世、廓(くるわ)にいた見習いのような少女も「かぶろ」と言いましたが、それは彼女らがその髪型だったことによります。それは「かむろ」とも言いましたが、「かはびうろ」は「かはみうろ(川見うろ)」とも言われたのでしょう。これらすべてを(すなわち(b)の意味のそれ(とくに「かむろ」)も慣習的に「禿」と書く。上記のようにこの字は無髪を意味します。つまり表記としては不自然なのですが、ほかに字も見当たらず同音であることによりそう書いたのでしょう。
「天皇(すめらみこと)、岐㠜(かぶろ)にましまし總角(あげまき)に至(いた)るまでに仁惠(うつくしびめぐ)みましまして…」(『日本書紀』:「岐㠜」を「かぶろ」と読むのは古い訓み。「あげまき」は結髪。ようするに、それが幼ない頃か成長した頃かを髪型で表現している)。
「いとほしやまだかぶろなるうなゐども…」(『夫木(フボク)和歌抄』)。
「童 …ワラハ カブロ」(『類聚名義抄』)。
「色薄赤く馨高く、髮はかぶろに押亂し……身の毛もよだつばかりなり」(「御伽草子」『酒呑童子』:これは酒呑童子の姿を言ったもの)。
植物名「おきなぐさ(翁草)」の別名に「かぶろ」がありますが、これは、この植物は、花後、白く長い綿毛状になりますが、それが白髪の老人を思わせ「おきな(翁)」であり、「かぶろ」が、乱れた髪、という意味にもなっているのでしょう。