「くらばね(座場値)」。「くら(座)」は、特別な居場所を創造するものであり、そこにつくことによりその「け(気)」は高まり特別のものとなる位置や施設を言いますが(→「くら(座・鞍)」の項)、この場合は古代の一族の長たる権威者が坐(すわ)る座(くら)。それがあるべきその居場処です。「くらば(座場)」は、想念的な、現実にも一族の長たる権威者が集まるそれはあったでしょうけれど、理念的に考えられている想念的な、その「くら(座)」が集まり一堂に会する場。「くらばね(座場値)」はそこでのその「くら(座)」の値(ね)、価値、社会的意味。その多数の「くら(座)」がいくつかの社会的意味に分けられたのです。自然発生的にそうなった。それを、その「くらばね(座場値)」を、言語表現したところのその一つ一つの称、そしてその汎称、それが「くらばね(座場値)→かばね(姓)」。姓(かばね)の種としては「臣(おみ)」「連(むらじ)」「造(みやつこ)」その他多数あります。「ねかばね(根姓)」とも言う。これはある人の根(ね:発生源。存在根拠)たる姓(かばね)の意。

 

「時(とき)に皇孫(すめらみこと)天鈿女命(あめのうずめのみこと)に勅(みことのり)すらく。「汝(いまし)、顯(あらは)しつる神(かみ)の名(な)を以(も)て姓氏(かばね)と爲(せ)む」((卜部兼方本訓)『日本書紀』:この「姓氏」は「うぢ」と読んでいる例もありますが、「うぢ(氏)」は、血の現れ、のような意味であって、ここで「うぢ」は奇妙です。また、ある人が顯(あらは)した神がその人の社会における「くらばね(坐場値)」になるという表現は本質的です)。

「群臣(まへつきみたち)皆(みな)言(まう)さく。『陛下(きみ)失(あやまち)を舉(あ)げ枉(まが)れるを正(ただ)して氏姓(うぢかばね)を定(さだ)めたまはば、臣等(やつこら)冒死(かむがむつか)へまつらむ』と奏(まう)すに可(ゆる)されぬ」(『日本書紀』:「かむがむつかへ(冒死へ)」は、「かむがめゐつかへ(神が目居仕へ):(自分の目は死に)神の目で世を見」ということでしょう。「冒(モウ・バウ)」は目を覆うこと。これは「允恭紀」四年秋九月のものですが、この後「味橿丘(うまかしのをか)」に「探湯瓮(くかへ)」を据えて「盟神探湯(區訶陀智・くかたち)」が行われたそうです)。