「けはひあし(気這ひ悪し)」。何かの「け(気)」が這って(そうした情況感が進行し)良くない、ということ。「けはひ(気這ひ)」が良くないのではありません。「~」で何かの動態が表現され、「~気這ひ悪し→~がはし」と、~の「け(気)」が這ひ、~の気(け)が感じられ、良くない、と表現されます。
「みだりがはし(濫りがはし):「みだり」は「みだれ」の他動表現」。「みだれがはし(濫れがはし)」。「らうがはし」(これに関してはその項)。
「いたつかはし」は「いたつくけはひあし(労く気這ひ悪し)」でしょう。労を要する「気(け)」が感じられる、いかにも労を要しそうだ、煩(わずら)わしい、面倒だ、ということ、あるいは、「いたつき」が病(やまひ)を意味し、病んだ状態になり、ということ。この語は「いたづがはし」と濁音にもなりますが、これは「いたづきげ」。
「恥(は)ぢがはし」が言われることもありますが、その語はありません。「はぢかはし→恥(はぢ)香(か)這(は)ひ悪(あ)し」(なんとなく恥ずかしい、気恥ずかしい,きまりが悪い)はあります。それは形容詞ですが、「はぢかはし(恥ぢ交差はし)」(お互いに恥じ入るような状態になり)という動詞もあります。上記の「~がはし」による「恥(は)ぢがはし」はないがなんとなく語音の似た「はぢかはし」という形容詞や動詞はあるということです。
「虫の声声みだりがはしく」(『源氏物語』)。
「いささかの事にも春日の神木、日吉の神輿などいひてみだりがはし」(『平家物語』:無秩序だ)。
「臭き物どものならびゐたる、いみじうみだりがはしうてなん」(『落窪物語』)。
「天骨(ひととなり)淫泆(インイツ)にしてみだりがはしく嫁(とつ)ぐことを宗とす」(『日本霊異記』)。
「 何ごとも、心やすきほどの人こそ、乱りがはしう、ともかくもはべべかめれ…」(『源氏物語』:何の心配もないようなほどの人こそみだりがはしくはあるだろうが(それでも何の心配もないだろうが)…、ということか)。
「莫煩餝語(イタツカハシクなかざりいひそ)」(『釈日本紀』)。
「ただ世のいたづがはしきをいとひて衣を墨に染め」(「御伽草子」)。
「心痛(いた)み、背(せなか)悶(イタヅカハシク)」(『三蔵法師伝』:この「いたづき」は病気)。
「労 …イタヅカハシ」(『類聚名義抄』)。