◎「かはいさう」
「かはいい(可愛い)」(→その項・5月10日昨日)の「かはい」(原形で言えばいえば「かはゆ」)がク活用形容詞の語幹として扱われ、様子や有り様を表す「さう」(→「さう」の項:「(傷が)いたさう(痛さう)」「たかさう(高さう)」その他のそれ)が付された表現。「かはゆし」の用いられ方には壊れそうな愛らしさを表現する系統と、破綻的(それゆえに悲嘆的)心情を表現する系統があり、「かはいさう」のそれは後者の悲嘆的系統によります。悲嘆を感じる様子や有り様であることを表現する。習慣的に「可哀想」と表記します。
「『これかゝさん、かはいさうに、おとなしくしてゐる物を』」(「咄本」『無事志有意』「はやり諷(うた)」:これは、妹がろくでもない男とつきあっていると疑った母親に対し姉が言っている)。
「あゝ宗悦は憫然(かはいさう)な事をした、何(ど)うも実に情ないお殿様がお手打に遊ばさないでも宜(よ)いものを、別に怨(うらみ)がある訳でもないに、御酒の上とは云いながら気の毒な事をした…」(「落語」『真景累ヶ淵』)。
◎「かはいらしい」(形シク)
「かはいアイらし(可愛い愛らし)」。「かはい」は「かはいい」の語幹であり、原形は「かはゆ」。「い」が省略されつつ形容詞が二つ並んだ表現。「愛らし」が加わることにより「かはいい」の二系統の意味(悲嘆的心情を表現する系統と壊れそうな愛らしさを表現する系統(→「かはいい」の項参照)が壊れそうな愛らしさの意に限定され強化され、壊れそうな→消え入りそうな→小さな、といった意味も帯びる。
「女は…何国(いづく)を沙汰すべし。ひとつは物越(ものご)し程(ほど)愛(アヒラシキ)はなし」(「浮世草子」『好色一代女』:女が可愛(かは)いさ愛らしさで人を(というよりも男をか)ひきつけるのは物腰だ、と言っている。「ものごし(物腰)」は、身のこなし、ふるまい、といった意味で言われるようになりますが、原意は「物越し」であり、物越しに(特に言語対応によって)姿が見えず現れるその人の印象)。
◎「かはうそ(獺)」
「かはうせを(川鵜背尾)」。鳥の一種たる川鵜(かはう)のような、背から尾にかけての形態のもの、の意。その体形形態の印象による名。これは水辺で生活するある哺乳類動物の名ですが、その背から尾にかけての体形形体に特徴があります(→「をそ(獺)」の項・下記)。
「水獺(原文に「カワウソ」の読み仮名がふられている) 和名ヲソ今俗ヲソヲ誤リテカハウソト云…」(『本草和名』(918年))。
◎「をそ(獺)」
「をせを(緒背尾)」。語頭の「を(緒)」はそれが長いものであることを表現する。「を(緒)」のように長い背と尾だということ。普通、動物は胴体尾部に「を(緒):紐状の長いもの」があるものですが、この動物は背がそのままのびて細くなっていくような形状で「を(尾)」がある。そうした特徴をとらえたことによる名。これはある種の哺乳動物の名ですが、この動物の名は後世では「かはうそ(川獺)」という言い方が一般的になります。
「獺 …和名乎曽 水獣恒居水中食魚為粮者也」(『和名類聚鈔』:「食魚為粮」は、魚を食料にしている、ということ)。