◎「かつら(添髪)

「かみつら(髪面)」。髪の表面、という表現であるが、表面は外からの見た目であり、「かみつら(髪面)→かつら」は髪の見た目であり、それを作るものを意味する。髪の表向きをよくするもの。髪の量が少なくなった場合、形を補うため添える髪。

「わが御ぐしの落ちたりけるを取り集めてかつらにし給へるが…」(『源氏物語』)。

「髲 …和名加都良… 髪少者所以被助其髪也…」(『和名類聚鈔』:「髲」の音(オン)は、ヒ)。

後には「かもじ」という言い方も現れます。これは「『か』文字」という女房言葉でしょう。「か」は「かみ(髪)」の「か」。

 

◎「かつら(仮髪)」

「かつら(添髪)」の影響によりそう呼ばれた。芝居で扮装のために頭に被る様々な髪形のもの。「かづら」とも言う。

 

◎「かづら()」

「かつづりわ(香綴り輪)」。自然の香を感じるものを綴(つづ)った(次々とつないだ)輪状のもの。花や蔓草その他を綴り輪にし、頭に被る。古くそういうものがありました。

「梅の花咲きたる苑(その)の青柳(あをやぎ)をかづら(可豆良)にしつつ遊び暮らさな」(万817)。「青柳をかづらにしつつ」ということは男がやっている印象が強いのですが、酒を飲むなどし、梅の花咲きたる苑(その)などでそのような宴をしたのは奈良時代でも男が主だったということでしょうか。しかし、「はねかづら(波禰)」(万1112)という語もありますから、女も、いつとはわからない古代から、「かづら」は帯びますし、奈良時代の公家の男の「かづら」よりもこちらの方がはるかに美しい。

この語は漢字で「蘰」(右下は「方」も「又」も同字)と書きますが、『類聚名義抄』に「蘰」の字はあるのですが、何の読みもかかれていません。右下の「力」や「又」の無い「蘊」は「ツツム アツム ツモル フフム アカム タフトシ(尊シ)」といった読み。「蘰」の「糸」の無い「蔓」は「ハヒコル…ハフ」といった読み。

「髲 釈名云髲 音被(音(オン)は「被」と同じ) 和名加都良 髪少者所以被助其髪也 俗用鬘字非也 鬘者花鬘之鬘 見伽藍具」(『和名類聚鈔』:これは上記「かつら(添髪)」の部分にもあるものでその説明なのですが、ここでの問題は後半部分であり、俗用で「鬘」の字を(上記の意味での「かつら」に)使うのは間違っている。この字は「花鬘」のことだ「伽藍具」を見ろ、と言っている。その「伽藍具」の部には「花 涅槃経云種花鬘」とある(「鬘」に関しては『大般涅槃經(ダイハツネハンギャウ(「般」を「はつ」と読むのはこの字がサンスクリット語の音訳字として用いられたことによる慣用的なもの))』「序品」に「車上垂諸花鬘」といった表現のほか、「其名曰(いはく)壽徳優婆夷。徳鬘優婆夷」といった表現がある。「優婆夷(ウバイ)」は女性の在家信者)。これは「花鬘(はなかづら)」。「漢人(からひと)も栰(ふね)浮かべて遊ぶとふ今日そ我が背子花縵(はなかづら)せな」(万4153))。

◎「かづら(鬘草)」

「かづら(鬘)」の影響により、それに用いられる蔓(つる)草類が総称してこう呼ばれた。

「きりかけだつものに、いと青やかなるかづらの、心地よげにはひかかれるに」(『源氏物語』:「切懸(きりかけ)」は板垣の一種。「きりかけだつもの」はその板垣のようなもの)。

「葛 加豆良」(『新撰字鏡』)。

『和名類聚鈔』には「葛類」という分類があり、そこには「通草 和名本草云通草…和名阿介比加都良(あけびかづら)」(これはアケビ(木通))、「絡石 本草云絡石一名領石 和名豆太(つた)…」などがあります。

 

◎樹木名に「かつら(桂)」がありますが、これは「かはていら(香果て高)」でしょうか。香(か)が果てに(終焉時、落葉時に)立つから。この樹木は落葉の際に甘い香りを出します。

「教(をし)へて曰(のたま)ひしく。『………傍(かたへ)の井(ゐ)の上(へ)に、湯津(ゆつ)香木有(あ)らむ。……』 訓香木云加都良(かつら)、木(き)ぞ」(『古事記』)。

料理における、たとえば大根の、「かつらむき(桂剥き)」は「かはつらむき(皮面剥き)」。皮のように表面を剥(む)くように切っていくから。