◎「かつ(且)」の語源

「かちつ(勝ちつ)」。何かを維持しつつ、維持して、の意(「かち(勝ち)」「かて(克て)」(「かち(勝ち)」の活用語尾E音化)はそういう意味の動詞です→4月2日)。「かちつ(勝ちつ)→かつ(且)」は、保(たも)ちつ、に意味が似ています。

「世の中し常かくのみとかつ知れど」(万472:「かくのみ」ということが認識として維持されつつ知っているが…)。

「よどみに浮かぶうたかたはかつ消えかつ結びて」(『方丈記』:水泡(うたかた)が自己維持し消え自己維持し結び自己維持し消え…) 。

「よる浪のかつかへる」(『源氏物語』:寄る波が寄る自己を維持しつつかへる。波がなだらかな浜にうち寄せ流れ広がり…、限界まで行きまた戻っていく…。その、海へ戻っていく流れが寄せる静かな薄い波とぶつかりこれと抗(あらが)うようにレースのような小さな波となりゆっくりと海へもどっていく…。これはあの情景です。あの情景をこんなに簡単にさらっと描写する描写力はすごいです。言うまでもなく、書いているのは紫式部さん) 。

「入りてかつ寝むこの戸開(ひら)かせ」(万3310:動態たる「入ること」が維持されたまま寝る。入ってそのまま寝る)。

「かつあらはるるをもかへりみず、口に任せて言ひ散らす」(『徒然草』:内的動態がそのまま維持され、なんの反省思考もなく現れるのもかえりみず)。

「AかつB」(Aが維持されたままB)。

 

◎「かつがつ」の語源

「かてつかてつ(克てつ克てつ)」。「かて(克て)」は限界的に自己維持の状態にあることを表現する自動表現(「かち(勝ち)」の活用語尾E音化であり、客観的対象を主体とする自動表現:自己維持することを表現する→「かて(克て)」の項)。「かてつかてつ(克てつ克てつ)」はそれが持続し繰り返されているわけです。その「かてつかてつ」によって何かが起こっていることを表現するのが「かつがつ」。表現されることは三つです。

一は、自己維持ができず、負け、まぁ仕方なく、ということ。この場合は「かつがつも」と言われる。「かつがつも枕と我はいざ二人寝む」(万652:まぁ、枕と寝ましょうか)。

二は、自己維持しながら負け仕方なくまた自己維持しながら負け仕方なく…とあまり気乗りのしない状態で事が進む。「散動して談笑しかつがつ聞く、是れ下品聞法なり」(『東大寺諷誦文稿』)。

三は、負けはするが自己は維持され、負けはするが自己は維持され、と遅々としているが着実に事が進む。「かつがつもいや前(さき)立(だ)てるえ(延)をし設(ま)かむ」(『古事記』歌謡17:この「え」は、年上(としうへ)、ということ)。「残りの命うしろめたくて、かつがつものゆかしがりて」(『源氏物語』)。

 

・別語で「かつ(且つ)」(上記)が二つ重なった「かつがつ」もあります。これは「かつ(且つ)」を強調したもの。

「かつ(且つ)」に「入りてかつ寝む」(万3310:動態たる「入ること」が維持されたまま寝る。入ってそのまま寝る)といった用い方がありますが(上記)、「かつがつ」が、今が維持されそのまま→ただちに、取り急ぎ、といった意味になることがある。

「かつかつ參りて、とゞめ聞えよ」(『蜻蛉日記』:ただちに行って(妻の寺への参詣を)阻止せよ(と女房に伝えた))。

そのまま事態が自動展開する、それが充実・発展に向かったりもする。

「思ふことかつがつかなひぬる心地して、涼しう思ひ居たるに」(『源氏物語』)。「その労未だ両年を過ぎざるにその名既に四海に流る、我が山の衆徒且(かつがつ)以て承悦す」(『平家物語』「(巻七)山門返牒」)。「住吉の御願かつかつ果たし給はむとて」(『源氏物語』)。