「くらテイ(坐体)」の動詞化。R音は退化しつつ「くら」は「か」になり、「てい」が「つ」になっている(子音を問わず、母音E音I音の連音がU音になるということはよくあります。これを覚えておくと言語音による語源考察を行う場合、役に立ちます)。「テイ」は「体」の音(オン:漢音)であり、有様(ありさま)を意味します。「くら(坐)」はそこに何かが乗る何かであり、「(馬の)鞍(くら)」であっても意味は変わりません(つまり、この動詞を馬の鞍で考えても意味は変わらないということです)。坐(くら)の体(テイ)の動詞化とは、坐(くら)のようになる、ということであり、自分が何かを乗せるものになるということ。乗せる身体部位は自然動態として通常、肩ですが、背でも頭でも「かつぎ」の意味は変わりません。「おふ(負ふ)」「になふ(担ふ)」といった語は古くからありますが、この「かつぐ(担ぐ)」という語はさほど古いものとも思われません。せいぜい室町時代なのではないでしょうか。
「安芸(あき)の国(今の広島県の一部)にはあの鳥出(い)で来(き)ぬれば稲を刈りてかつぎ運べばいなおほせ鳥と申す也」(『三秘抄』「㐧(第の略字)四 秋上)」(宮内庁書陵部本):これの原文は仮名が非常に多く、しかも変体仮名も書かれ、原文の印象はここに書かれているようなものではありません。「かつぎ」の部分も「か川〇」のように書かれ、〇の部分は「起」の極度の略体らしい。「か」もまるで小さな「つ」です。また、この書は、書かれたのは1600年代最初期だと思うのですが、歌人からの聞き書きらしく、その歌人も家伝の聞き書き書を読んだのかもしれず、したがって、この資料からは「かつぎ」という動詞がいつごろからあるのかはわかりません)。
婦女を略取(暴力的誘拐)したり、女との合意のもと、略取するように親元から婦女を連れ去ることなども言う。「かつぎ(担ぎ)」は「だまし(騙し)」という意味でも用いられますが、それは、担がれた人の意思にかかわらず人をどこかへ連れて行ってしまうからということでしょう。
「縁起をかつぐ」は、何かを担(かつ)げばそれに手を添え、それに手が寄る。縁起を担ぐ→縁起に手が寄る→縁起をたより(手寄り)にする、ということでしょう。「縁起をかつぐ」なども、平凡に言いますが、その意味は明瞭に解明されていないのが現状です。これに関しては、お祓(はら)いで御幣(ごへい)を担ぐから、ということがよく言われます。
意味の似た動詞で「かた(肩)」の動詞化たる「かたげ(担げ)」「かたぎ(担ぎ)」もあります。「弓をかたげて…」(「狂言」)。
「かた(片)」の動詞化で、傾ける、という意味の「かたげ(傾げ)」もあります。「小頸(こくび)かたげて月ぞながむる」(「俳諧」)。