◎「かたまけ(片まけ)」(動詞)の語源
「かたまけ(片設け)」。「まけ(設け)」という動詞は、M音が表現する意思動態・推想動態による動詞、ということなのですが、思念の動態になります。たとえば「夏まけ」(夏負け、ではない)と言った場合、夏が推想され、思われ、夏を期待し待っているような状態になります。「かたまけ(片設け)」は片寄った状態でそうなることであり、一遍に思い設けること。何かに偏し(何かに偏(かたよ)り)意思維持をすること。何かをひたすら期待する状態になること。
「梅の花散り乱(まが)ひたる岡傍(をかび)には鶯鳴くも春かたまけて」(万838:ひたすら春を思い、のような意になる)。
「百千歳との曇りのみしつる空きよく晴れゆく時片まけぬ」(『志濃夫廼舎歌集(しのぶのやカシフ)』)。
◎「かだみ(奸み・控み)」(動詞)の語源
「かはとあみ(『彼は…』と編み)」。『彼(か)は…(あれは)』と、案を編集すること。案(考え)を凝らし工夫すること。案(考え)を凝らし工夫した場合、それにより積極的に何かをする場合(A)と何かをすることを控える場合(B)がある。前者(A)の場合、策により人を操(あやつ)ろうとしたり、悪い謀(はかりごと)をする、という意味になる傾向が強い(男女(夫婦)間で(とりわけ性的な)不誠実なことをする、という意味にもなる)。後者(B)は、傷にふれることを控える、傷を庇(かば)う、という意味でも用いられます。
(A)「遂(つひ)に王の國の内に姧(カタミ)詐ることを日に増多にあらしめてむ」(『金光明最勝王経』巻第八・王法正論第二十:平安初期点:経典では「増多」は音(オン)で読まれているようです)。
「事毎(ことごと)に姧(カダ)み諂(へつら)ひてありけり」(『続日本紀』宣命)。
「己(おの)が婦(め)を他(ひと)に姧(かだ)めりと嫌(うたが)ひて…」(『日本書紀』大化二年三月甲申(きのえさる:二十二日):女房がほかの男と浮気している、とやたらに司に訴えて来る者がいるそうですが、これは嫉妬深さだけが原因かどうかは怪しいです。妻の不貞を言い、妻を「 事瑕之婢(ことさかのめのやつこ):離縁して女がそのまま男の家の使用人のような状態になること」にし自分がほかの女を考えている可能性もある)。
(B) 「匠の申すやう『…(柏原の帝が)『一尺切れ』と仰せられしが、『……』と思ひ候ひて、五寸をきりて候ふなり。それに、(柏原の帝が)『いま五寸』と仰せ候へば、初め御覧じそこなひたるには候はず。五寸かたみて切り候はず』と申す」(『世継物語』「今は昔柏原の御門の御時に…」(鎌倉時代の説話集))。
「木隠れにかだむか見えぬ鼠茸」((「俳句」:木隠れに身を隠しているような状態になっている)。
◎「かだまし(奸し)」(形シク)の語源
「かだみああし(奸みああし)」。「ああ」は嘆声。「かだみ(奸み)」(上記)の形容詞表現。奸(かだ)む印象であることの表明。
「『嗟(ああ)、夫(そ)れ磐井(いはゐ)は西(にし)の戎(ひな)の姧猾(かだましきやつこ)なり』」(『日本書紀』)。
「姧 ヲカス……カタマシ…」「姦 ……イツハル……カタマシ…」(『類聚名義抄』)。
「皆頼朝が姦(かだま)しき計策(たばかり)に困(くるし)められしなり」(「読本」『雨月物語』)。