◎「かす(粕・滓)」

「かあすふ(香飽す生)」。「か(香)」は(酒の)発酵を意味します(1月2日)。「あし(飽し)」は「あせ(飽せ)」の他動表現。飽和状態にすること(空虚感を表現する「あ」による動詞です)。「ふ(生)」は発生、発生感のあるもの、を意味します(「よもぎふ(蓬生)」その他)。「かあすふ(香飽す生)」、すなわち、香(か:発酵)を飽和させている発生感のあるもの、とは。発酵が飽和し、その役割が終わった米その他です。酒の醸造の際に酒を作るには必須であるがそれは酒ではなく完成時には不用になるもの。つまり、この「かす」という言葉は醸造から生まれたものであり、「さけかす(酒粕)」がその原型でしょう。のちには、何かを作る際に出た不用な残物、のような意で一般的に用いられるようになります。

「糟 ……和名加須 酒滓也」(『和名類聚鈔』)。

「酵 ……和名之良加須 白酒甘也」(『和名類聚鈔』)。

「うごま(胡麻:胡麻の異名)はあぶら(油)にしぼりてう(売)るにおお(多)くのぜに(銭)いでく(出で来)。そのかす(滓)みそしろ(味噌の代わり?)へつかふ(使ふ)によし」(『宇津保物語』)。

「結局自分等は何を報いられたか。そこには苦い生活のカスが残されたばかしでないか」(『湖畔手記』(1924年))。

「 食べかす」。

 

◎「かしら(頭)」

「かしいら(遥し高)」。「かし(遥し)」(2月22日)・「いら(高)」はその項参照(下記※)。この場合の「かし(遥し)」は遠方感をもって何かを見ること。「かしいら(遥し高)」は、人が(他の人が)その「かし」をする、際立って上へ進行した情況のもの、の意。人々が見上げるようなもの。人の最上部。人体では首から上、さらには頭部。族集団では権威的に最も上部の人(つまり、社会的に見上げるような立場の人)。

「父母が頭(かしら:可之良)かきなで幸(さ)くあれて言ひし言葉(けとば:気等婆)ぜ(是)忘れかねつる」(万4346:これは東国の防人の歌であり、方言的な変化がある)。

「秋の野のおしなべたるをかしさは薄(すすき)こそあれ………冬の末まで、かしらのいとしろくおぼとれたるも知らず…」(『枕草子』)。

「弟の時房と泰時といふ一男と二人をかしらとして、雲霞のつはものをたなびかせて都にのぼす」(『増鏡』)。

※ 「いら(高)」は随分前のものなので、再記しておきます。

「いら(高)」   「い」は進行感を表現し「ら」はそうした情況にあることやそうした情況にあるものやことを表す。これが局部的や局点的に何かが進行感をもって秀でている印象、特起的に秀でている印象、そうした印象のものやことを表現する。社会的な、価値的・意味的、秀でも表現する。「いらつめ(高つ女):郎女(下記※)」や「いらつこ(高つ子):郎子」の「いら」はこれであり(「つ」は助詞)、(社会的・意味的・価値的に)特異的に秀でた子(こ)・女(め)という意味になる。物的な極点的秀でとして、刺(とげ:薔薇(ばら)などの)を意味する「いら」もこれ。「えびはいらいらとして、つのありて…」(『名語記』)。※ 「郎(ラウ)」という字は「良(ラウ・呉音)」の借用の様に用いられているらしい。この字は男を意味し、中国語に「郎女」という表現はない。

 

◎「かしり(呪り)」(動詞)の語源

「けはしり(気走り)」。「け(気)」が走る印象になること。これは呪詛することを表現します。

「『……亦(また)嚴呪詛をせよ…』嚴呪詛、此(こ)をば怡途能伽辭離(いつのかしり)と云(い)ふ」(『日本書紀』)。

「……を收(とら)へ縛(しば)りて、火(ひ)の中(なか)に投(なげい)れむとして (以下小字)火(ひ)に投(なげい)れて刑(つみ)するは蓋(けだ)し古(いにしへ)の制(のり)なり(小字終り) 呪(かし)りて曰(いは)く。『吾(わ)が手(て)投(なげい)るるに非(あら)ず、祝(はふり)の手(て)を以(も)て投(なげい)るるなり』といふ」(『日本書紀』)。