◎「かしぎ(炊ぎ)」(動詞)

「ふかしいひ(柔し飯)→かし(「ふ」の無音化)」 の動詞化(下記「かし(淅し)」参照)。「ふかし(柔し)」は「ふけ(柔け・蒸け)」の他動表現。「ふかしいひ(柔し飯)」は、柔(ふか)し出来上がった飯(いひ)。その動詞化「かしぎ(炊ぎ)」は「いひ(飯)」を作ること一般を表現します。すなわち(蒸すのではなく、炊く場合には)、米をとぎ(不純物を取り汚れを落とし)、水を加え、火にかけ炊飯し、飯になります。それら一連の行為が「かしぎ(炊ぎ)」。「ふかしいひ(柔し飯)→かし」に関しては、(皿として)それを盛ったのが植物名「かしは(飯葉):柏」。一枚に盛るわけではありません。たとえば円状に重ね連ねる。この語は古くは「かしき」と清音でした。

「竈(かまど)には火氣(ほけ)吹(ふ)き立(た)てず 甑(こしき)には 蜘蛛(くも)の巣(す)かきて 飯(いひ)炊(かし)く ことも忘(わす)れて…」(万892)。

「蒸 …ムス…カシク」(『類聚名義抄』)。

「〓 …炊五穀也 可志久又宇牟須」(『新撰字鏡』:「〓」は「火」偏に「廮」)。

 

(参考:これは2月22日に取り上げた項目ですが、参考として再記します)

「かし(淅し)」(動詞)

「ふかし(柔し・蒸し)」の「ふ」の脱落。何か(特に米)を柔らかく(印象として)軽くすること。具体的には米を水に漬(つ)けておくこと。さらには、水に合わせるという意味で、米を研ぐことも言い、米を蒸すことも意味したかも知れない。転じて、何かを水に浸(ひた)したような状態にすることも「かす」と表現することがあった。主に米や豆に関して言うが、さまざまな乾物を水に漬けてもどすことも言う。「…種をかしける」(『堀河百首』:去年刈り取って保存しておいた籾を水につけた)。「名の附た水で米かす柴の庵」(「雑俳」)。

 

◎「かしげ (傾げ)」・「かしぎ(傾ぎ)」(動詞)の語源

・「かしげ (傾げ)」(動詞)

「かしぎへ(炊ぎ経)」。「かしぎ(炊ぎ)」は飯(いひ)を作ること一般を意味しますが(上記)、飯(いひ)をつくる、を、言(い)ひをつくる、にかけた表現。すなわち、「かしげ」は、言ひをつくっている。ということはまだできていない。言ひをつくろうとはしているが言ひはできていない。何か言いたいのだが何を言ったらよいのか分からず言葉にならない。なぜ何かを言いたいのかと言うと、疑問や不満を感じているからです。そんな状態になっていることが「首をかしげ」と表現され、そんなとき人は首をひねるように頭部は傾き、「かしげ」は、かたむけ(傾け)、のような意になります。

この「かしげ(傾げ)」はたぶん江戸時代に生まれた表現でしょう。半ば言語遊戯のような表現です。

「首をかしげて物あんじ」(「人情本」)。

・「かしぎ(傾ぎ)」(動詞)

「かしげ(傾げ)」の自動表現。音便化し「かしいだ柱」といった言い方をします。

「宝舟布袋の方へかしぐなり」(「雑俳」)。