◎「かこと(託言)」

「かはこと(『彼は…』言)」。「は」は消えた。「彼(か)は…」は、後世の表現で言えば「あれは…」ということです。人は「あれは…」という言い方で何を言うか。「かこと(託言)」では何が言われているのか。人は「あれは…」と人に(その人に対する)不満を言い、不平を言い、非難し、責める。また、人は「あれは…」と言い訳をし、弁明し、自分への非難を和(やわ)らげなくすための原因をあげる(こういうこともあったから、あるから、仕方がないんです、と言うわけです)。さらには、その発展として、予想される自分への不平・不満や評価の低さをなくすためその効果のありそうな何かを言う(それを言いつつ何かをする)。それらすべてが「かこと(託言)」です。つまり、「かこと(託言)」は、責める系と言い訳系が基本ですが、そこには(a)不平・不満・非難、責めと、(b)言い訳、言い訳になる原因あげ、(c)言い訳借り、言い訳になる権威借り、の三種があるわけです。(c)は「かこと(託言)」が動詞化(自動表現化)した「かこち(託ち)」やシク活用形容詞「かことがまし(託言がまし)」に現れます。

 

「人をいたづらになしつる(人を死なせた)かこと負ひぬべきがいとからきなり」(a『源氏物語』:人を死なせた非難を負うことがつらい)。

「口疾(と)きばかりをかことにて取らす」(b『源氏物語』:素早く詠んだということを(上手でないことの)言い訳にして渡した)。

動詞化した「かこち(託ち)」では。

「指一つを引き寄せてくひて(噛みついて)はべりしを、おどろおどろしくかこちて」(a『源氏物語』:(おおげさに)非難して)。

「酔ひにかこちて苦しげにもてなして」(b『源氏物語』:酔ひを言い訳たる原因にし苦しそうなふりをし)。

「このをのこ(男)のをの(己)れかさき(先)のよ(世)のつみ(罪)のむく(報)いをはし(知)らて観音かこち申てかくて候こといとあやしきこと也」(『古本説話集』第58話「長谷寺参詣の男、虻を以つて大柑子に替ふる事」:いわゆる「わらしべ長者」:類型としてはcですが、観音の権威・威光に頼り、のような意味になります)。

「かこち顔(がほ)なる我が涙かな」(a『千載和歌集』:自分の過去の失敗や過ちを責めているような涙)。

「かこちなし(託ち成し)」(c:「かこち(託ち)」を為(な)す(する:言い訳になる権威を借り)。「かこつけ(託ち付け)」に意味が似ています)。

「かこちより(託ち寄り)」(c:言い訳になる権威を借りるために接近する。たとえば、Aと親しくなりたいのだがそれが難しいのでAと親しいBに接近しBを原因にしてAに接近しようとする。それにより、あんな奴がAに、というAに接近することへの非難・不満を回避する)。

 

◎「かこち(託ち)」(動詞)

「かこと(託言)」(上記)の動詞化。「ひとりごと(独言)」の動詞化が「ひとりごち(独言ち)」になるような変化。「かこと(託言)」をすること。用例も「かこと(託言)」の項(上記)。