◎「がけ(崖)」

「がらくえ(がら崩え)」。「ら」のR音は退行化した。「がら」「がらがら」は崩れる状態を表現する擬態。「がらくえ(がら崩え)」は、全的に崩れた印象の土地部分。

「『あゝ、先待て待て』『何(なに)とおくれたか(なぜ気後れした)』『うしろはしたゝかながけじや』…『夫(それ)幸(さいはひ)、つき落(おと)いてやらう』」(「狂言」『文山立(ふみやまだち)』)。

 

◎「かけあひ(懸け合ひ)」(動詞)

「かけ(懸け合ひ)」。

・「かけ(懸け)」が自動表現の場合。対象相互が交流し、合う→釣り合う、匹敵する。「挑燈に釣鐘、かけあはぬ事すれば…」(「浮世草子」:つりあわないこと)。対象たる物事に→関係する。「黄河の水を引て運河とす。これにかけあふ役人……十二万人余といふ」(『孔雀楼筆記』)。対象たる人に交流し、合う→相談、談判、交渉する。「重兵衛に懸合(カケアッ)て、つがふ(都合)してつとめをひかせるから」(「人情本」)。

・「かけ(懸け)」が他動表現の場合。相互にそうする→「声をかけあふ」。

 

◎「かけす(掛巣)」

「からけす(空気鳥)」。「ら」の脱落。「す」は鳥を意味する→「す(鳥)」の項。これは鳥の一種の名ですが、この鳥は他の鳥の声や物音を真似ます(※)。それによる、現実にはありもしない気配をつくる鳥、の意。 

※ たとえば、山で伐採しているチェーンソーの音。人に飼われて馴れると人語も真似るそうです。

 

◎「かけぢ(碊道)」

「きはくえぢ(牙歯崩え路)」。牙(きば)や歯(は)が崩れたような路(みち)。切り立ち歩行困難な路。「あさき心ばかりにてはかくも尋ね参るまじき山のかけぢに…」(『源氏物語』)。「碊道 ……夜末乃加介知(やまのかけち)」(『類聚和名鈔』:「碊」の「戔」は矛が打ち合っている様を表し、『広韻』に「傷也」とある。「がけ(崖)」も「碊」の字を書くことがある)。崖に棚のように作り懸けた「かけぢ(懸け路)」という語もあります。