◎「かぎろひ」
「かぎりゆれほおひ(限り揺れ炎生ひ)」。「かぎり(限り)」はその項(2月3日:昨日)。「かぎりゆれほおひ(限り揺れ炎生ひ)→かぎろひ」は、内容限定された揺れる炎(ひ)が発生的に現れること。限っている、限定化している、炎(ほ:燃焼)、とは、火炎がちぎれたように、燃焼物なくただ炎が揺れる現象です。そんな現象が「かぎりゆれほおひ(限り揺れ炎生ひ)→かぎろひ」。立ち上る水蒸気に光が屈折し空中に透明な揺れる何かが現れたような現象も同じような印象のものとして「かぎろひ」と言われます。
「かぎろひ(迦藝漏肥)の燃ゆる家群(いへむら)妻(つま)が家(いへ)のあたり」(『古事記』歌謡77:これは火災を遠くから見ている)。
「かぎろひ(蜻火)の燃ゆる荒野(あらの)に…」(万210:これは火葬の炎による上昇気流により周囲の大気に屈折が起こり視界が揺れているのでしょう。これは挽歌です)。
「今さらに雪降らめやもかぎろひ(蜻火)の燃ゆる春へとなりにしものを」(万1835)。
◎「かげろふ」・「かげろひ」(動詞)
・「かげろふ」
「かげりおひゆ(かげり追ひ揺)」。「かげり」は「かげ」の動詞化ですが、「かげ」には光の意と陰・影の意があります。「かげりおひゆ(かげり追ひ揺→かげろふ」は、光と影が交錯しつつ追うように揺れる情景を表現し、そのようなことやものを意味します。表現されることやものは自然現象と昆虫であり、大気の乱れによる光の屈折、光をきらめかせながら揺れるように舞い飛ぶ、ウスバカゲロウのような、昆虫(蜉蝣)、及びそれに形態の似た蜻蛉(とんぼ)、を広く総称します。表現されていることは「かぎろひ」に似ており、両語は混乱混同し蜻蛉(とんぼ)が「かぎろひ」と言われることもあります。
「ながめ給ふゆふぐれ、かげろふのものはかなげにとびちがふを」(『源氏物語』)。
「つれづれの春日にまがふかげろふのかげ見しよりぞ人は恋しき」(『後撰和歌集』)。
・「かげろひ」(動詞)
「かげろふ」の動詞化。「かげろふ」はその項(上記)。ようするに、「かげろふ」のような現象になること。この「かげろふ」の動詞化は平安時代末期からのことです。
「灯(ともしび)壁にそむけつつ、寝所に入りて静まりぬるほどに、火(ほ)の影にかげろふものあり。………盗人なるべし」(『発心集』)。
「(暑さに萎(しほ)れたような草が)かげろひ(陰・影)て涼しくくもる夕立の空」(『新古今和歌集』)。