◎「おり(織り)」(動詞)
「おほ(大)」の動詞化。「おほり(大り)」。大きくすること。糸を、事実上平面的に、編み重ねて大きくすること。全体を成形することを表現する場合は「あみ(編み)」と言います。蓆(むしろ)を成形することは「あみ(編み)」が普通かも知れませんが、古くは「おり(織り)」とも言いました。文部省の仮名遣いで、竹を二つにおり(折り)、と書かれる動詞もありますが、それは「をり(折り)」です。
「未通女(をとめ)等(ら)之(が) 織(お)る機(はた)の上(へ)乎(を) 真櫛(まくし)用(もち) 掻上(かかげ)栲嶋(たくしま) 波間(なみのま)従(ゆ)所見(みゆ)」(万1233:「栲嶋(たくしま)」は島根県松江市の大根島(だいこんしま)かと言われている。髪をまとめることを言った「たく(高く)」と島の名の「たく」がかかっている)。
「み吉野の青根が峯の蘿(こけ)むしろ誰(た)れか織りけむ…」(万1120)。
◎「おらび」(動詞)
「おほほらび(大洞び)」。「ほほ」は退行化し無音化した。「ほら(洞)」は空虚化した地形部分ですが、「おほほら(大洞)」は、他の洞と比較して大きい、という意味ではなく、規模が増大化していく洞(「おほ(大・多)」の項参照)の意。「び」は「みみ(耳)」の動詞化であり、「さけび(叫び)」に同じ→「さけび(叫び)」の項。「おほほらび(大洞び)→おらび」は、洞(ほら)が、すなわち空洞が、その規模が増大していくような聴覚刺激を受けること。すなわち、空洞内の反響のような聴覚刺激をうけること。これも、「さけび(叫び)」と同じように、「おらぶ」努力によって生まれた動詞ではなく、その響きの聴覚刺激を受けることにより生まれた動詞でしょう。
「時(とき)に大鷦鷯尊(おほさざきのみこと)御胸(みむね)を打ちおらび哭(な)きたまひて」(『日本書紀』)。
「天(あめ)仰(あふ)ぎ叫(さけ)びおらび」(万1809)。
◎「おりない」の語源
「おいりある(御入り有る)→おりゃる」の逆意であり、「おりゃる」が、居ること、在ること、行くこと、来ること、を一般的に表現し、「おりない」はそうした現象がないことを一般的に表現します。
「『何とするとは、覚えが有(あろ)う』『イヤ、覚えはおりない』」(「狂言」:覚えはございません)。
「全くこれにはさやうの人はおりない」(『(天草本)平家物語』:いらっしゃいません)。
「大風が吹いて新しい魚がおりない」(「咄本」:ございません)。