◎「おもほし(思ほし)」(形シク)

昨日は動詞の「おもほし(思ほし」でしたが、これは形容詞の「おもほし(思ほし」です。

「おもひおひほし(思ひ負ひ欲し)」の音変化。「おもほほし」のような音が「おもほし」と書かれている。「おもひおひ(思ひ負ひ)」は、相手が自分の思ひを負うこと。「おもひおひほし(思ひ負ひ欲し)→おもほし」は、相手が自分の思ひを負ふことが欲しい、つまり、自分の思いを分かってもらいたい、ということ。

「間使(まづか)ひも遣(や)るよしもなし おもほしき言伝(ことづて)やらず…」(万3962)。

「 思ほしき ことも語らひ 慰(なぐさ)むる 心はあらむを…」(万4125)。

 

◎「おもむき(赴き)」(動)

「おもひふみゆき(思ひ踏み行き)」。「ふみ(踏み)」は実践に入ることを意味する。「おもひふみゆき(思ひ踏み行き)→おもむき」は思ひが或る具体的な実践に入ることであるが、その思ひで実践されることも「おもむき」と表現する。

「彼岸におもむく人」(『地蔵十輪経』:彼岸へ行く思いになり向かっている人)。

「この吹く風はよき方の風なり。……よきかたへおもむきて吹くなり」(『竹取物語』)。

「…など語らふに、二人は、おもむきにけり」(『源氏物語』:同じ思いになった)。

連用形が名詞化している「おもむき(趣)」は、ある特性的・個性的な思ひが実践されている(現れている)、ということ。

「おもぶく」とも言う。古くはむしろ「おもぶき」が一般的であり「おもむき」は子音発音の退化かもしれない。

 

◎「おもむけ(赴け)」(動)

「おもむき(赴き)」(→上記)の他動表現。思いを踏み行かせ、ということであり、思ひをある具体的な実践に入らせること。思ひをそうさせることも、そうした思ひで実践に入らせることも意味する。

「恥づかしげなる御気色なれば、強ひても、え聞こえおもむけ給はず」(『源氏物語』)。ある思いに向かわせ、に意味は似ているわけであるが、その表現ではその思いで実践に入ることの表現が弱い。

古くは「おもぶけ」とも言う。

「教へ賜(たま)ひ おもぶけ賜ひ」(『続日本紀』宣命)。

「おもむけ」という名詞もある。意向、や、意向にそった事の運び、の意です。