◎「おます」

「おります(降ります)」の「り」が落ちた表現。語尾の「ます」は丁寧さを表現する助動詞ですが、この場合の「おり(降り)」は、気持ちが降りる、事が落ち着く、事がなくなる、の意。「これはAでおますか?」「Aでおます」(これはAで事は落ち着きますか? 落ち着きます。これはAですか? Aです)と疑問を婉曲的に表現しこれに答えたことが用い方の原型でしょう。これは関西系の表現。

「ハテ、御ゑんりょはおませんわいな。おぬぎなませ」(『東海道中膝栗毛』:遠慮は降りない、あなたが遠慮することは気持ちが落ち着き安定しない)。

「あなたのそのなりは何でおますぞいな」(『東海道中膝栗毛』:何で降りるか、何と知ることで気持ちが落ち着き納得するか)。

 

◎「おませ」

「おまゐらせ(御参らせ)」ないしは「おんまゐらせ(御参らせ)」の音変化。何かを相手へ参らせる(行かせる)ことを謙譲的に丁寧に言うわけであり、さしあげる、のような意味になります。

「何ぞおませたい物ぢゃが」(「狂言」)。

「夫(それ)ならば皆ゆるしておませうぞ」(「狂言」:許しまゐらせ、という意味になり、許す)。

 

◎「おほろか」の語源

「おひおろか(追ひ粗か)」。「ひお」が「ほ」になっている。「おひおろか(追ひ粗か)→おほろか」は、知的にであれ、心情的にであれ、動態的にであれ、追ひ(追跡・追及)がいい加減であること。

「この花の一枝(ひとよ)のうちに百種(ももくさ)の言(こと)ぞ隠(こも)れるおほろかにすな」(万1456:いい加減に考えるな)。

「つのさはふ磐之媛(いはのひめ:皇后)が おほろかにきこさぬ うら桑(ぐは)の木」(『日本書紀』歌謡56:磐之媛(いはのひめ)がいい加減に聞き過ごしたりしない)。

 

◎「おほゐこ」の語源

「おほゐこ(大居子)」。「こ(子)」は愛称として付されている。大きな居(ゐ)の子、すなわち、人間性の大きさ、豊かさ、社会的歴史的意味や価値、といったものすべてを含め、大きな存在たる子(ひと)、の意。『古事記』歌謡61にある表現。この表現は偶発的なものであり、一般的ではないでしょう。

「そのたかき(高城)なるおほゐこがはら(腹(※))」(『古事記』歌謡61:この「はら(波良)」は一般に「原」と解されています。これは後に「きもむかふ(枕詞)」で問題になると思います)。