「おふをふせ(逐ふを伏せ)」。「おひ(逐ひ)」は同化しようとする何かに対しそれを否定し拒否しさらにそれを遊離化、対象化する努力をすることであり(11月8日)、「ふせ(伏せ)」は、何かを経過存在にすること、何かをそれがそこで自足的に経過しているような状態にしてしまうこと、ですが、「おふをふせ(逐ふを伏せ)→おほせ」は、逐(お)おうとする動き(それを拒否し排除しようとする動き)を伏す(それを押さえ込むような状態にする、あるいは、そうせざるを得ない状態にあることを利用する)こと、です。抵抗を排除し征服する、のような意。「おひ(負ひ)」の使役表現「おはせ(負はせ)」に意味は似ているわけですが、それほど直接暴力的ではありません。それでも何かを一方的に負担させる状態になり、物、すなわち荷物、に関しても言い、ものごと、たとえば罪や責任に関しても言い、ものごとを表現し伝える言葉、に関しても言います。言葉に関しては名付けることも表現する。金の貸し借りに関しては、相手の抵抗を伏して金を貸すわけではありませんが、貸す方が債権者となり返還請求の圧力を加える立場になる関係で、貸方(債権者)を「おほせかた(仰せ方)」と言います。この「おほせ」は「いひ(言ひ)」の尊敬表現にもなりますが、その言葉に(何かを負わされるような)権威的な力を感じる表現です。また、ある動態をやり終えることも表現します。この、やり終える、のような意味のそれは動態から受ける抵抗をすべて伏せ果たした、のような表現。

 

「片思ひを馬にふつまにおほせもて…」(万4081:馬に荷を負わせる。「ふつま(布都麻)」は、「ふてうま(捨て馬):いらない馬」でしょう。「もて」は「もち(持ち)」の使役型他動表現)。

「酒の名を聖(ひじり)とおほせし古(いにしへ)の…」(万339:聖(ひじり)と名づけた)。

「手おほせて打ち伏せて」(『徒然草』:傷を負わせた)。

「司司(つかさつかさ)におほせて……二千人の人を竹取が家に遣(つかは)す」(『竹取物語』:各役所に命じて)。「おほせの通り」(おっしゃるように)。

「『女院はいづくへ御幸なりぬるぞ』と仰(おほせ)ければ」(『平家物語』:これは単に言っている(そして問うている)。命じてはいない)。

「此の事しおほせつるものならば国をも庄をも所望によるべし」(『平家物語』:すべてやりとげる)。