◎「おほ(大・多)」

「おふおふ(覆ふ追ふ)」。語尾の「ふ」は前音に影響されつつ無音化した。意味は、覆(おほ)ふ状態が追ふこと、覆ふことが追ふ状態になっていること、覆うことが何かを追っている状態になっていること。何かを覆うということは、その覆った何かはその覆われた何かを内包するということであり、それはそれを内包する規模だということである。その「覆うこと」が追うように起こるということはそれをさらに内包するということであり、規模が増大していく。そうした動態状態を感じさせることが「おふおふ(覆ふ追ふ)→おほ(大・多)」。「おほぞら(大空)」「おほやま(大山)」「おほみや(大宮)」その他。これは権威に関しても言われる。「おほきみ(大君)」「おほいらつめ(大嬢)」その他。動態に関しても言われる。「おほまします御南(みみなみ)の町(まち)なる奴(やつこ)をうけよと」(「正倉院文書」:これは原文は「於保末之末須美美奈美乃末知奈流奴乎宇気与止」)。

これは「おほし(大し・多し)」というク活用形容詞の語幹になり、対象は肥大膨張し(「おほきなA」:大)、対象の存在動態の肥大は個体数を増す(「おほくのA」:多)。

「夏影の房(つまや)の下(もと)に衣(きぬ)裁つ吾妹 裏(うら)設(ま)けてわがため裁(た)たばやや大(おほ)に裁て」(万1278:五七七五七七の旋頭歌。「裏(うら)設(ま)けて」は、心構えして、のような意)。

「太政大臣………於保萬豆利古止乃於保萬豆岐美(おほまつりごとのおほまつきみ)」(『和名類聚鈔』:「まつきみ」は「まへつきみ(前つ君)」)。

 

◎「おほい(大)」

「おほ(大)」の形容詞表現「おほし」の連用形「おほき」の音変化。「おほいに」という言い方もなされる。関西弁で感謝を表明する「おほきに」は「大きに」(非常に)。これは、非常に恐縮します、といった思いの表現なのでしょう。なるほど…、や、まったく、といった、相手が言ったことへの相づちとしても言う。これは、非常なことだ…、といった漠然とした心情表現なのでしょう。

「おほいなる籠」(大きい籠(かご))。「おおいなるわざ」(盛大だったり立派だったりする事)。「おほいに悦び」(非常に悦(よろこ)び)。

「大納言………於保伊毛乃萬宇須豆加佐(おほいものまうすつかさ)」(『和名類聚鈔』)。ちなみに「少納言」は「須奈伊毛乃萬宇之(すないものまうし)」(「須奈伊(すない)は「すくない(少ない):「すくなき(少なき)」の音便)」でしょう。

「あのお蔭で大(オホ)きに能(よく)なりやした」(「滑稽本」:非常に良くなった)。「おほきに替はった」(非常に替わった)。「『…でございます』『おほきに…』(なるほど…)」。

「面(おもて)の奥(おく)の大(おほ)きに出られて(主人の)横柄なる言葉は尻に聞かし給へ」(『好色一代女』巻四「栄耀の願ひ男」:「面(おもて)の奥(おく)の大(おほ)きに出られて」とは、表向き奥深く遠大な様子に出て、ということか)。