「おフクラウ(御福労)」。「お(御)」は尊重感のあるものに添えられる。「福(フク)」は、神の恵み(幸(さいは)ひ)、を意味する漢語。「労(ラウ)」は務(つと)めや疲(つか)れを意味する。「福労(フクラウ)」は、めでたい苦労、ということであり、めでたい苦労をした人を「おふくろ」と言う。めでたい苦労とは子を生むことです。つまり「おフクラウ(御福労)→おふくろ」は、その労をとった人、ある人を生んだ人、をその苦労に思いをはせつつ敬いの念と祝福の念を抱きつつ表現したもの。古くは主君の子を生んだ女(つまりその母)を家臣が「おふくろ」と表現したりしました。後には男が自分の母親を表現する呼称となりますが、もともとは他者の、それもさまざまな意味で尊重すべき人の、生母をそう表現したのではないでしょうか。古くは女も男もこの語を用いたといいます(『日葡辞書』にそうあります)。前記のように、後には男が、それも自分の母親を、謙譲と自尊と母への尊重が入り混じったような心情で表現する語になります。なぜ男なのかというと、前記のように、それは武家の家臣が主君の子を産んだ女をそう表現するような用いられ方をした語だからであり、なぜそうした複雑な心情になるかというと、自分を生んだことが「めでたい苦労」になるからです。
「今暁室町御姫君御誕生也。御袋大舘兵庫頭妹也」(『康富(やすとみ)記』享徳四(1455)年正月九日)。
「児既ニ成長シテ……母ヲ御袋ト云 オフクロト訓ス」(『守貞(もりさだ)漫稿』・1837年起稿)。
「京阪ノ俗ハ他ノ母ノ薙髪(テイハツ:髪を剃ること)シタルヲ御袋様ト云、江戸ニテハ薙髪有髪及ビ老長ヲ択(えら)ハズ他ノ母ヲ御袋様ト云」(『守貞漫稿』・1837年起稿)。